乳がんの治療費はいくら必要か。知っておきたい費用の目安と抑え方
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予想がつかない乳がんの治療費用
女性にとって、今や決して遠い存在ではない乳がん。
病状や選択する治療法により、治療費にも大きな違いがあり、費用がいくらかかるのか予想がつかないのが現状です。
とくに乳がんの治療は個人に合わせて多様化しており、手術や放射線治療、抗がん剤やホルモン剤、分子標的療法などをそれぞれの病状に応じて組み合わせます。
別途どのような検査が必要になるか、乳房を温存したり再建したりしたいかどうか、薬に対する感受性はどうか、ジェネリック医薬品を使用できるかどうかでも費用は異なります。
また、身長や体重によっても使う薬の量が違うため、費用に差が出ます。
治療ごとの費用のだいたいの目安と、できるだけ費用を抑える方法、そして払えない時にはどうすればよいのかについて知っておきましょう。
乳がんの治療費の目安
症状により、治療法もさまざま。
それぞれの治療法ごとに、だいたいの治療費についてみてみましょう。
ホルモン療法の場合20~40万円
ホルモン療法は内分泌療法とも呼ばれ、ホルモン剤の投与が行われます。
とくに、エストロゲンを取り込んで増殖するタイプの乳がんに効果があり、再発予防を目的として手術後に行われることもあります。
閉経前と閉経後では、使用するホルモン剤も異なってきます。
ホルモン療法を行う期間は2年から10年で、使う薬と期間によって費用が違ってきます。
具体的には、閉経前の人に用いられる「リュープリン」を3カ月ごとに皮下注射した場合、1年行ったとして29万円となります。
同じく閉経前の人に使う「ゾラデックス」を4週間ごとに皮下注射して1年行うと、総額は47万円となります。
閉経前後の期間にある人には「ノルバデックス」という抗エストロゲン薬の飲み薬が用いられます。
1年間服用して総額は約12万円です。
閉経後は「アリミデックス」というアロマターゼ阻害薬の飲み薬を使用します。
1年間内服でかかる費用はおよそ18万円となります。
これら2種類の薬は一部ジェネリック医薬品を利用できる場合もあります。
放射線治療の場合約60万円
放射線治療は多くの場合、乳房温存手術の後に行われます。
たとえば週5日、5週間、合計25回の放射線照射を行う場合、総額はおよそ47万円から70万円となります。
治療の状況によっては追加照射が必要となります。
一回当たり5,000円から8,000円の支払いですが、初回は管理費などが加算されるので、1万円から1万6,000円ほど多めにかかります。
化学療法の場合20~50万円
化学療法とは、一般に言う抗がん剤治療のことです。
いくつかの抗がん剤を組み合わせて行われることが多く、身長と体重をもとに算出された体表面積に基づいて、投与量が決定されます。
代表的な組み合わせ方とおおよその費用を見てみましょう。
なお、下記の費用は身長160センチ・体重50キロの人が治療を受けたと仮定した場合の金額です。
また、吐き気止め薬剤や外来化学療法料など、抗がん剤治療自体以外にかかる諸費用を1万円と仮定しています。
AC療法
ドキソルビシンとシクロホスファミドの静脈注射を組み合わせた方法で、3週間ごとに4回行って費用はおよそ13万円です。
TC療法
エピルビシンとシクロホスファミドの静脈注射を組み合わせた方法で、3週間ごとに4回行って総額はおよそ47万円です。
FEC療法
フルオロウラシル、エピルビシン、シクロホスファミドの静脈注射を組み合わせた方法で、3週間ごとに6回行ったとして総額はおよそ53万円です。
分子標的治療の場合約200万円
分子標的治療は、がん細胞特有の因子を狙い撃ちする薬を使って、ピンポイントでがん細胞だけを攻撃し、できるだけ正常な細胞に害がないように治療することを目標としています。
ある種の乳がんのがん細胞表面には「HER2タンパク」という増殖命令を出す因子があり、分子標的治療薬のトラスツズマブやペルツズマブなどは、この働きをブロックします。
検査の結果、乳がん細胞にHER2タンパクのある人がこの治療の適応となります。
乳がん患者の15%から20%が該当するといわれています。
トラスツズマブを3週間ごとに18回投与した場合、総額は約216万円(体重50キロの人の場合)となります。
場合によって、3日ほどの入院が必要になることもあり、その場合は入院費もかかります。
手術の場合約100万円
手術には、乳房を切除する手術と温存する手術があります。
切除する場合は、再建手術をするかどうかによりかかる費用が変わります。
また、わきの下にあるリンパ節までがん細胞が飛んでいる場合は、リンパ節も同時に切除(廓清)する必要があります。
どのような手術を行うかにより、治療費や入院日数が異なってきます。
例を挙げると、乳房温存手術で、腋窩リンパ節を廓清しなくてよい場合、入院は7日間、治療費はおよそ75万円が目安となります。
一方、乳房切除手術で、腋窩リンパ節も廓清する場合、入院はおよそ14日間、治療費は約100万円と考えてよいでしょう。
なお、この金額は入院費込み、差額ベッド代・食事別の費用となります。
乳がんの治療費を抑える方法
よい治療を受けたいのはもちろんですが、費用はできるだけ抑えたいものです。
どんな工夫をすればよいでしょうか。
個室を選ばない
4人以下の病室に入院すると、差額ベッド代あるいは差額室料と呼ばれる費用が掛かります。
この費用には健康保険は適用されず、部屋当たりの人数が少ないほど高額になります。
平成27年を例に挙げると、一日平均で一人部屋7,828円、二人部屋3,108円、三人部屋2,863円、四人部屋2,414円の支払いとなります。
大部屋での入院生活は気を遣いそうだと心配する人もいるでしょう。
確かに、プライバシーは限られていますし、非常識な人がいるなどして影響を受ける可能性もあります。
しかし、実際に入院生活を送った人からは、意外にも大部屋がよかったという声も寄せられています。
とくに初めてのがん治療では、同室の患者さんたちが治療の先輩ですので、次のステップではどんなことをするのか、どのように対処すればよいのか、教えてもらうことができて助かったという人が多いです。
費用をできるだけ抑えたいなら、迷惑はお互いさまと割り切って、大部屋に入院するのがおすすめです。
病状がどうしてもつらい人は、術後すぐは個室や少人数の部屋にし、できるだけ早く大部屋に移るという方法もあります。
日頃からがん検診を受ける
費用の節約という意味でも、早期発見・早期治療は非常に大切です。
初期のうちに見つかれば、治療も大掛かりにならず、入院費用も抑えられ、再発・転移によるさらなる出費の可能性も低く抑えられます。
日本はがん大国であるにもかかわらず、がん検診を受ける人はまだまだ多くないのが現状です。
乳がんのリスクが高いとされる40歳から69歳の女性の乳がん検診受診率は、欧米で50%を超えているのに対し、日本ではたったの17.5%。
知識や危機感が少なく、面倒くさい・恥ずかしいなどと検診を受けない人が多いのではないかといわれています。
再発の予防に努める
乳がんの再発や転移により、さらに高額の治療費がかかることは避けたいものです。
乳がんの再発予防には、生活習慣が大きくかかわっています。
とくに、肥満の場合は乳がん再発リスクが1.4倍から1.8倍も高くなることがわかっています。
食生活では、肥満にならないよう高脂肪の食物やカロリーの高い飲料を制限しましょう。
野菜、果物、全粒穀物が多い食事を心がけてください。
定期的な運動も大切です。
1週間に150分以上運動し、2日以上は筋力トレーニングを含めることが推奨されています。
手術や化学治療の後は、体調がすぐれず運動どころではないと感じるかもしれませんが、少しずつでも定期的な運動ができる生活に戻していくことが再発予防への近道です。
乳がんの治療費が払えないときの対処法
乳がんの治療費がかさんでしまい、経済的に厳しくなった時の対処法をいくつかみてみましょう。
会社に傷病手当を申請する
傷病手当とは、業務上でない負傷や病気のために就業できなくなった時に給付されるお金で、本人と家族の生活費として支給されるものです。
がんの手術や治療などで休職した場合、休職が連続する3日間を含み4日以上にわたった場合、その間給料がもらえないか少ない場合に適用されます。
これを知らずに有休を使ってしまう人もいますが、手術の入院の際など条件に当てはまる休職の場合はぜひ傷病手当を利用し、後から必要になる抗がん剤治療などのために有休を残しておくとよいでしょう。
障害年金を申請する
病気による障害で、生活や仕事に支障が出た場合に、障害年金祖申請することができます。
乳がんの治療では、ホルモン療法や放射線治療、抗がん剤治療の副作用によるだるさやしびれ、嘔吐や貧血といった症状であっても、仕事に支障があるということが認定されれば支給が望めます。
高額医療費制度を利用する
高額医療費制度とは、病院や薬局での費用が一定の自己負担限度額を超えた場合、超えた分が払い戻される制度です。
自己負担限度額は、年齢や収入によって変動します。
たとえば、70歳以下の場合、住民税非課税世帯では35,400円、年収が370万円以下の人では57,600円となります。
一般的な治療の場合、健康保険で7割が負担されますから、残りの3割が自己負担となります。
1カ月当たりその額が自己負担限度額を超えた場合、超えた部分は軽減してもらうことができるという制度です。
ただし、保険適用外の費用や、入院時の食費・差額ベッド代、交通費などは対象となりません。
あらゆる手段を使って治療費を賄おう
乳がんと診断されたら、自分の身体や命のこと、家族のこと、これからのことなど、考えなければならないことがたくさんあります。
本当はお金の心配をしている場合ではないのですが、現実問題として費用の問題は大きくのしかかってきます。
できるだけ負担を軽減しながらよい治療を受け、お金の心配をし過ぎずに前向きに治療に集中するため、乳がんの治療費や制度についての知識を深めましょう。
万が一に備えるのです。
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