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相続放棄する際は相続放棄申述書が必要になる
遺産を相続する場合に注意しなければならないのは、遺産にはプラスの財産だけではなくマイナスの財産もあるということ。
マイナスの財産とは簡単にいえば借金のことです。
また、被相続人(なくなった人)が他人の連帯保証人となっていた場合には、連帯保証人の地位も相続することとなり、相続時には何事もなかったとしても、のちのち、他人の借金も引き受けなければならないリスクを負うこととなります。
そのような相続はしたくないと考えるのであれば、相続の放棄をしなくてはなりません。
そのための手続きが相続放棄申述書の作成と家庭裁判所への申し立てとなります。
ここでは、相続放棄申述書の作成方法や申し立て手続きの手順、さらには相続放棄の申述に際しての注意点について解説します。
相続放棄申述書が必要になる相続の放棄について
相続の放棄とは被相続人が生前有していた権利や義務を一切受け継がないことをいいます。
被相続人が所有していた預金や不動産などの財産だけではなく、借金も受け継ぎません。
そのため、被相続人の財産が借金のほうが多い場合には行うメリットがある手続きです。
相続の放棄をしない場合には、被相続人の有していた借金すべてを引き受けることとなります。
そのため、状況によっては被相続人の財産だけではなく、自分の所有財産も債権者から差し押さえられる覚悟をしなければなりません。
相続放棄申述書の提出方法
ここからは、相続放棄申述書の作成と家庭裁判所に対する提出方法について解説します。
相続放棄申述書を入手する
相続放棄申述書は、家庭裁判所のサイトからダウンロードすることができます。
なお、その際には相続放棄の申述人(家庭裁判所に申し立てをする人)が20歳未満か20歳以上かで使用する申述書の書式が違うので、注意しなければなりません。
相続放棄を行う申述人が20歳未満の場合には、その法定代理人が申述人の代理として申述を行うものとされているためです。
相続放棄申述書の書き方
相続放棄申述書には、記載する欄が太枠で囲われて指定されています。
主だった項目としては次の通りです。
- 相続放棄を申し立てる家庭裁判所
- 作成年月日
- 申述人の住所、氏名、連絡先(平日の昼間に連絡がつく携帯電話の番号等)、職業
- 被相続人との関係(子、孫、配偶者等)
- 被相続人の氏名、本籍、最後の住所、死亡日
- 相続放棄の理由
- 相続財産(資産と負債を記載)
申述人はこれらの項目を記載した後に捺印します。
【参照URL:http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/】
相続放棄申述書の記載例
相続放棄申述書の記載内容は先に解説した通りですが、申述人が20歳未満か20歳以上かで、記載の仕方が違います。
以下、この点について解説します。
申述人が20歳未満の場合、その申述人自身が直接、家庭裁判所に相続放棄の申し立てを行うことはできません。
民法5条1項には、未成年者が相続などの法律行為をするためには、法定代理人の同意を得る必要があると規定されているからです。
その場合には、法定代理人が申述人に代わって、家庭裁判所に相続放棄の申し立てを行うこととなります。
相続放棄申述書には、申述人の住所、氏名、連絡先と法定代理人等の住所、氏名、連絡先を記載する欄が設けられており、申述人が20歳未満の場合には、申述人と法定代理人等を記載する欄に、それぞれの住所、氏名、連絡先を記載することとなります。
家庭裁判所からは法定代理人に対して手続きに関する連絡がいくこととなっているのです。
申述人が20歳以上の場合には、法定代理人等の欄を記載する必要はありません。
相続放棄の申述をする期間がある
相続放棄の手続きを行う事ができる期間は、3カ月間と定められています。
民法915条1項に、相続人は自己のために相続が開始されたことを知った時から3カ月以内に、相続を承認するか放棄するかを決めなければならないと規定されているからです。
そのため、相続人は自分の親がなくなって3カ月の間に、資産状況を調べて借金の有無や、誰かの連帯保証人になっているのか、いないのかについて確認しなければなりません。
この調査は場合によっては時間がかかることもあり、3カ月以内に終わらせることが困難なことも考えられます。
そこで、民法915条1項では、但し書きとして、そのような場合には期間の延長をすることができるとしています。
なお、相続人が20歳未満の場合には、その法定代理人が相続人のために相続が開始されたことを知った時から、3カ月以内に申述をすることとされています。
相続人が未成年者の場合には法定代理人が選任されるまでの間は、相続放棄の申述期間に含まれないわけです。
相続放棄申述書の提出先
相続放棄の申述書を提出するのは家庭裁判所とされていますが、どこでもよいわけではありません。
相続放棄の申述書を提出することができるのは、相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所とされています。
ここで問題となるのは、最後の住所地の意味です。
住民票記載の住所とされることが多いのですが、被相続人が亡くなったときに、居住していたのが住民票記載の住所とは違っていた場合はどうなるのか、という問題です。
その場合には、実際に居住していた場所が最後の住所地となります。
相続放棄の申述書を提出する先は、その地を管轄する家庭裁判所となるのです。
相続放棄の申述には費用負担がある
相続放棄の申し立てを行うためには、相続放棄申述書の作成とともに収入印紙代として800円、さらに家庭裁判所からの連絡用として切手代が必要となります。
収入印紙代は相続放棄を申し立てる申述人1人に対してかかる費用で、申述人の人数分が必要です。
たとえば、申述人が2人であれば、800円×2人=1600円 が必要な印紙代となります。
また、相続放棄の申述書を提出すると、後日、家庭裁判所から相続放棄に関する照会書が送られてきます。
このように家庭裁判所から申述人に対して送られる書類の送付用として切手が必要となるのです。
その際の具体的な切手代は、申し立てを行う家庭裁判所に確認するようにしてください。
相続放棄の申述に必要な書類
相続放棄の申述には、相続放棄申述書のほかに、申し立ての添付書類が必要となります。
添付書類は、申述人と被相続人との関係によって異なり、次の通りです。
共通した書類
- 被相続人の住民票除票または戸籍の附表
- 申述人の戸籍謄本
申述人が被相続人の配偶者
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
申述人が被相続人の子、もしくは孫
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
- 相続人が被相続人の孫の場合には、死亡した被相続人の子(孫の親)の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
申述人が被相続人の父母、もしくは祖父母(直系尊属)
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
- 被相続人の子で、すでに死亡している人がいる場合には、その人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
- 被相続人の直系尊属で、相続人となる人よりも下の代の人(相続人が祖父母の場合、相続人の父母)が死亡している時は、死亡した人の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
申述人が被相続人の兄弟姉妹、もしくは甥、姪
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
- 被相続人の子で、すでに死亡している人がいる場合には、その人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
- 被相続人の直系尊属(親、祖父母)の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
- 申述人が被相続人の甥、姪の場合には、その人の親の死亡の記載のある戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍)
【参照URL:http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/】
相続放棄申述書提出後の流れ
ここからは、相続放棄申述書を提出した後の手続きの流れについて解説します。
家庭裁判所から照会書と回答書が送付される
相続放棄申述書を提出すると、家庭裁判所から照会書と回答書が送られてきます。
これらの書類は、相続の放棄は相続人が自分の意思で行っているのか否か、相続財産の内容を相続人がどの程度把握しているのか、さらに相続放棄の理由は何か、などを確認するために送られてくるものです。
照会書と回答書は2つで1セットとなっていますが、家庭裁判所によって書式が異なっており、なかには1つの書類で2つの内容を兼ねているものもありますので、注意が必要です。
書類に記入し家庭裁判所に返送する
相続放棄の照会書と回答書が送られてきたら、書類に記入して、家庭裁判所に返送します。
これらの書類は先ほど解説した通り、申述者が相続放棄をすることについて、家庭裁判所が確認を行うためのものです。
そのため、記載にあたっては慎重に行う必要があります。
家庭裁判所が審理し問題がなければ受理される
家庭裁判所は返送されてきた照会書と回答書をもとに審理を行い、問題がなければ相続放棄の申述が受理されることとなります。
万が一、申述が受理されない場合、再度の申し立てを行うことはできません。
そのため、家庭裁判所への回答書を記載するにあたっては弁護士や司法書士などの相続にくわしい専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄申述受理通知書が送付される
家庭裁判所に回答書を送った後、内容に問題がなければ、相続放棄申述受理通知書が送られてきます。
この時点で相続放棄が認められたこととなります。
ただし、相続放棄申述受理通知書は紛失した場合に再発行はできませんので注意が必要です。
もしも、紛失してしまった場合には、相続放棄申述受理証明書の発行を申請して、それを使用することとなります。
相続放棄申述受理証明書の請求方法
相続放棄申述受理証明書とは、相続放棄の申述が受理されたことを証明する必要がある場合に家庭裁判所に対して交付を申請し、発行してもらう書類です。
先ほど解説したように相続放棄申述受理通知書を紛失した場合や、相続放棄をしない他の相続人が不動産登記を行う場合に、相続放棄をした相続人がいることを証明するために必要となります。
不動産登記には、相続放棄申述受理通知書は使用できないとされているため、相続放棄申述受理証明書が必要となるのです。
相続放棄申述受理証明書は家庭裁判所のサイトからダウンロードすることができます。
その書類に所定の事項を記入し、次の書類とともに家庭裁判所に送付して請求します。
相続放棄申述受理証明書請求に必要な書類(郵送で申請する場合)
- 手数料(申述者1名につき150円の収入印紙)
- 家庭裁判所からの返信用封筒(切手を貼ったもの 相続放棄申述受理証明書4通までは82円、5通以上92円)
- 申請者の氏名、住所が相続放棄を申述した際のものと異なる場合には、関係を証明するために戸籍謄本、戸籍の附表が必要
相続放棄申述受理証明書請求に必要な書類(家庭裁判所で直接申請する場合)
- 申請者の運転免許証もしくは健康保険証のコピー
- 申請者の印鑑(認印で可)
- 相続放棄申述受理通知書
- 手数料(申述者1名につき150円の収入印紙)
以上の書類は一般的なものです。
申請手続の内容によっては、追加の書類を求められる可能性がありますので、請求にあたっては事前に家庭裁判所に確認するようにしてください。
【参照URL:http://www.courts.go.jp/tokyo-f/vcms_lf/S03-3-1.pdf】
相続放棄申述書提出前に注意すること
相続の放棄は、抱え込まなくともよい借金から逃れられるという点でメリットのある制度です。
しかし、いくつか問題点も指摘されています。
ここでは、相続放棄申述書の提出を行う前に注意する点について解説します。
相続権の移動で新たな相続人が出現する
相続の放棄をした人は、最初から相続人ではなかったこととなります。
そのため、他に相続人がいる場合には相続順位が繰り上がり、当初、相続の権利をもっていなかった人が新たな相続人として登場することとなります。
たとえば、相続人として、被相続人の配偶者と子どもが1人いたとします。
このときに、子どもが相続の放棄をしたとすると、新たな相続人として、被相続人の親、もしくは兄弟姉妹が登場することとなるのです。
被相続人の配偶者と、新たな相続人との関係が良好であればよいのですが、そうではない場合に、遺産分割協議に悪い影響を与える可能性がでてきます。
そのため、相続放棄をする場合には、事前にそのことを親族に伝えておく必要があるでしょう。
相続放棄の手続きをすると撤回できない
相続放棄の手続きは、一度してしまうと撤回することができません。
そのため、相続放棄を行った後で、新たな財産が見つかり、そのことによって、借金が帳消しになったとしても、再び相続人としての権利を主張することはできないのです。
相続放棄の手続きを行う際には、相続財産の調査をしっかりと行う必要があるでしょう。
ただし、例外的に相続放棄の取り消しが認められることがあります。
詐欺や脅迫によって相続放棄をさせられた場合と、20歳未満の未成年者が法定代理人の同意を得ずに相続放棄をしてしまった場合です。
もしも、詐欺や脅迫によって相続放棄をしてしまった場合には、弁護士に相談しましょう。
相続財産を一切相続できなくなる
相続放棄をするというのは、最初から相続人ではなかったこととを意味します。
そのため、仮に借金よりも資産のほうが多かった場合でも、相続放棄をした人は相続財産に対する一切の権利を失ってしまうのです。
そのため、借金よりも財産のほうが多くなりそうな場合など、相続財産の状況によっては相続放棄ではなく、限定承認の申述を行うことを検討するのがよいでしょう。
限定承認とは、被相続人の借金については、被相続人の資産の限度でのみ返済すればよし、とする制度です。
たとえ、被相続人の資産で借金全額の返済ができなくても、相続人自身の財産から返済する必要はありません。
相続人にとっては借金を背負い込むリスクを防ぐことができるだけではなく、新たに相続財産が見つかった時に、借金が残っていなければ、その分の資産を相続することが可能になります。
相続放棄の申述は慎重に
相続の放棄は借金や連帯保証のリスクから逃れることができる、という意味でメリットがある制度です。
しかし、その一方で新たな相続人の登場による遺産分割協議への影響や、相続放棄の撤回が認められないなど、いくつかの問題点も指摘されています。
相続放棄の申述にあたっては、それらのメリットデメリットを検討したうえで、一時の感情ではなく、あくまでも慎重に行うようにしましょう。