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中小企業でも退職金制度を作ることができる
退職金というと、ある程度の規模の企業でなければ、なかなかまとまった額を受取ることは難しい場合も。
中小企業では、退職金を準備することが難しいのも現実です。
とはいっても中小企業だからといって退職金をあきらめなければということはありません。
中小企業でも退職金制度をつくることはできます。
国の制度を利用すれば、企業に大きな負担がかからなくても、退職金制度を作れます。
退職金制度があれば企業にとっても魅力を高めることになり、社員にとっても励みになるでしょう。
自社負担が大の退職金制度と補助有の退職金共済
会社に入社した際に退職金制度や退職金共済などの説明を受けたことがある人も少なくないでしょう。
退職金制度と退職金共済何か違うのでしょうか。
退職金制度はそれぞれの会社で定めている退職金に関する制度です。
一方、退職金共済は、国などが行っている退職金を積み立てるための共済制度です。
中小企業の多くがこの退職金共済を利用しています。
退職金共済は、国から補助を受けながら退職金を積み立てられる制度。
それぞれの会社で定められている退職金制度に合わせて、その一部を退職金共済で積み立てるという使われ方がメジャーです。
中小企業退職金共済とはどのような制度かは退職金共済の一つ
退職金共済の代表的なものが中小企業退職金共済です。
中小企業退職金共済は国が行っている制度で、国からの補助があるので、中小企業は少ない負担で退職金の準備をすることができます。
国の補助は加入してから4カ月目から1年間、掛金の1/2の補助です。
退職金共済は他にもありますが、中でも中小企業退職金共済は補助が大きいこともあり多くの中小企業が加入しています。
中小企業退職金共済の加入の仕方
中小企業退職金共済は国の補助のある退職金共済です。
だれもが加入できるわけではなく、条件を満たすことが必要です。
どのような条件があるのか、加入にはどのようなものを準備したらよいのかなど、理解しておきましょう。
加入は事業主が行いますが、従業員の同意も必要です。
逆に、従業員が勝手に加入することもでないので、加入を希望しているなら、まずは事業主に制度の趣旨や加入方法など説明することも必要です。
中小企業退職金共済の加入手続き
中小企業退職金共済には、加入できる事業所の条件があります。
あくまでも中小企業を応援するための制度ですから、企業規模が大きくなると該当しません。
まずは、事業所が条件を満たしているのかが重要です。
加入条件は次の通りになります。
- 製造業や建設業などの一般業種・・・常用従業員数300人以下または、資本金・出資金3億円以下
- 卸売業・・・常用従業員数100人以下または、資本金・出資金1億円以下
- サービス業・・・常用従業員数100人以下または、資本金・出資金5千万円以下
- 小売業・・・常用従業員数50人以下または、資本金・出資金5千万円以下
この条件を満たしていれば加入することができます。
事業所が新たに加入する際には、新規加入の手続きを行います。
加入は、金融機関や商工会議所などの委託事業団体でできます。
中小企業退職金共済の従業員の加入資格
従業員の加入にも条件があります。
基本的には常用従業員全員の加入となりますが、使用期間中の人であったり、定年退職まで期間がないような短期間で退職が決まっている従業員は対象外です。
基本的に、役員も加入できませんが、役員であっても事業主に雇用されている場合は加入できます。
さらに、事業主と同居の親族の場合も、事業主と雇用関係を証明する書類を提出することで加入できます。
中小企業退職金共済の退職金の受給方法
中小企業退職金共済は、事業主が掛金の全額を支払いますが、退職金の請求を行うときは、対象の従業員が申請を行います。
退職金というと退職した際に会社から一括で振り込まれというのが一般的ですが、中小企業退職金共済では、従業員が申請を行うことで会社を通さず直接従業員に支払われます。
これは必ず従業員に退職金が行くようにするためです。
中小企業退職金共済では、給付方法も給付・分割・一括分割の併用の3種類の給付方法から選択できます。
企業の退職制度によっても違いますが、必ずしも中小企業退職金共済から給付される退職金が、退職金の全額とも限りません。
退職制度に合わせて、一部を中小企業退職金共済で賄っていることも多いため、退職金も企業から渡されるものと、中小企業退職金共済から給付される退職金の2本になることもあります。
退職金の請求を行う際には、退職金請求書・退職金共済手帳が必要です。
退職金共済手帳は加入した際に発行されますから、なくさないように保管しておきましょう。
地方の仕組で中退共の加入で補助が出る場合も
中小企業退職金共済は国からの補助があり、加入した最初の1年間、掛金の一部が補助されます。
これだけでなく地方自治体でも補助を行っていますから利用するとよいでしょう。
地方自治体も中小企業退職金共済への加入促進を行っています。
それに伴って補助を行っています。
補助の仕方はそれぞれの自治体によって違いますが、掛金の一部の補助を行い、事業所が申請することで事業所の方に該当する金額が振り込まれる流れになります。
掛金が直接補助されて少なくなるということではないので一度は掛金の支払を行って後で補填されると考えるとよいでしょう。
中小企業退職金共済の掛け金
中小企業退職金の掛金は、5,000円から始まり30,000円までの間で事業主が決めます。
また、通常の掛金とは別に特別掛金として短時間労働者を対象とした掛金もあります。
従業員に合わせて掛金を決められるのです。
掛金は、退職するまで支払続けることになりますから、先のことも考えて決める必要がありますし、それぞれの企業で定めている退職金制度で退職時にどのくらいの退職金を支払うことになるのかを考えて決めることが大切です。
正社員の中退共の掛け金の種類
中小企業退職金共済の掛金は5,000円から30,000円までに16種類のかけきんが準備されています。
5,000円から10,000円までは1,000円刻みで上がり、10,000円から30,000円までは2,000円刻みです。
この中で必要な金額から加入することができますし、途中で増額することも可能です。
ただし、退職金の掛金は、全額事業主負担となり、従業員の給与から天引きするといったことはできません。
そのため、掛金をきちんと払い続けることができるのかの判断も重要となります。
掛金の補助はありますが、1年間ですから、その後は、本来の掛金を支払う必要があります。
掛金は従業員によって違うものになって大丈夫ですから、長く働いている従業員に対しては高めの掛金にするといったように従業員に合わせて掛金を選択します。
短時間労働者の中退共の掛け金の種類
パートなどの短時間労働者も中小企業退職金共済に加入できます。
正社員の掛金とは別に特例掛金が準備されており、2,000円・3,000円・4,000円の掛金から選択することができます。
短時間労働者は、一週間の所定労働時間が他の一般従業員よりも短いことと1週間の所定労働時間が30時間以下であることが条件です。
こちらの掛金にも補助があり、掛金の1/2 に加えて掛金によって違いますが数百円の補助もあります。
掛け金の課税状況
中小企業退職金共済の掛け金は全額事業主が支払う必要がありますが、法人であれば損金、個人企業であれば必要経費として計上することができ、全額非課税扱いです。
経費として計上することができるので、退職金の準備を行いながら税金対策を行うこともできます。
掛け金は従業員の給与所得にも参入されませんから、従業員にとっても有利です。
ただし、資本金・出資金が1億円を超える法人企業のばあいには、外形標準課税が適用されますから、注意が必要です。
掛け金の増減に関する注意点
掛け金は、途中で変更することができます。
16種類の掛金の中で増額したり減額したりすることができ、増額する際には、退職金共済手帳に綴られている掛金月額変更申込書で手続きを行います。
減額も同様になりますが、減額の際には従業員の同意が必要です。
掛け金を変更する際には、変更したい月の前月の15日までに手続きを行う必要があります。
減額する際には従業員の同意も必要になりますし、仮に掛け金の支払が厳しいといった時には、厚生労働大臣の認定書が必要ですから、最初から無理をすることなく余裕が出てきたら増額するような方向で考えた方がよいでしょう。
中退共以外の退職金共済
中小企業退職金共済以外にも退職金共済はあります。
運営している団体も違いますし、内容も違いますから、どういったものがあるのかをきちんと理解してそれぞれの企業に合ったものを選択することが大切です。
返戻金がある養老保険
中小企業が退職金の積み立てとして利用することが多いのが養老保険です。
養老保険といっても通常のものとは違い、福利厚生プランを利用します。
これは企業の福利厚生を応援するための養老保険であり、企業が加入することで、掛け金の1/2を損金として計上することができるため企業にとってもメリットがあります。
契約期間満了で満期保険金が企業に支払われますから、その後企業から従業員に渡されることになります。
また、契約期間中に被保険者が死亡した場合には被保険者の遺族に死亡保険金が支払われることになるので、遺族の生活の支援になります。
また、返戻金があるため、途中解約を行っても元金割れをしてもお金が返ってくるため利用することができます。
社会福祉法人の退職金制
社会福祉法人の経営する社福祉施設などの職員のための退職金制度が福祉医療機構の退職手当共済制度です。
通常の退職金制度とは違い、福祉関係に特化した退職金制度となっており、掛け金の一部を国と地方自治体で負担しています。
残りの掛け金に関しては共済契約者である経営者負担です。
社会福祉施設の待遇改善の意味もあり、福利厚生の強化として社会福祉関係の施設で利用されている退職金制度になります。
商工会議所毎に決まりがある特定退職金共済
中小企業退職金共済と同じように中小企業の加入が多いのが商工会議所・商工会で取り扱っている特定退職金共済です。
中小企業退職金共済同様中小企業の従業員のための退職金共済ですが、掛け金が中小企業退職金共済とは違い1,000円程度から始めることができることから、企業の負担が少なく退職金の積み立てを行うことができるとして人気です。
仕組みは中小企業退職金共済と同じようですが、補助はなく、また、商工会議所・商工会によって内容に違いがるため加入には管轄の商工会議所か、商工会に確認する必要があります。
個人事業主でも加入できる小規模企業共済
退職金共済の中には、事業主や役員が加入することができるものもあります。
それが小規模企業共済です。
小規模企業共済は、小規模企業の経営者や役員の退職金とも呼ばれている共済になり、役員の退任や60歳といった要件を満たした時に請求を行うことになります。
掛け金に関しては個人で負担することになりますが全額が控除対象ですから、所得税の節税にもつながります。
小規模企業の経営者や役員の退職金を会社で積み立てることは難しい場合も多いため、小規模企業共済で準備をしておくのも方法の1つです。
退職金の金額と加入年数の関係
実際に受給することが出来る退職金の額は掛け金によっても違いますが、それだけでなく加入年数によっても違いがあります。
退職金は加入年数が長い方を手厚い仕組みです。
実際に加入年数との給付額の大まかな目安が次のようになります。
- 加入年数12カ月未満・・・退職金の支給なし
- 加入年数12カ月~24カ月未満・・・掛け金を下回る
- 加入年数24カ月~42カ月・・・掛け金相当分
- 加入年数43カ月~ ・・・掛け金を上回る
実際の掛け金よりも上乗せが生まれるのが43カ月からとなっています。
ネットでの退職金の金額の確認方法
どのくらいの退職金を受給することができるかは気になるところです。
老後の生活を考えても退職金の額は重要ですから、ある程度の額を知っておきたいなら、計算してみるとよいでしょう。
退職金の額は自分で計算する方法と中退共に結果を出してもらう方法があります。
自分で計算を行う場合には、中退共のホームページにシュミレーションを行うことができるページがあるのでそれを利用すると便利です。
掛け金と納付年数、年齢を入力することで給付予定の退職金額を知ることができます。
【※参考情報:http://chutaikyo.taisyokukin.go.jp/cgi-bin/sisan.cgi】
中退共に算出してもらうためには、同じように中退共のホームページにある退職金試算依頼書をダウンロードし、必要事項を記入、捺印した後に企業に提出し手続きを行ってもらいます。
退職金額の結果は、企業に送付されますから、それぞれの企業から試算表を受取ることになります。
解散存続厚生年金基金から中退共制度への移管
厚生年金基金は、厚生年金の3階分部にあたる年金の上乗せです。
企業年金と考えるとよいでしょう。
この厚生年金基金は少子高齢化やバブル崩壊といったことから財政が悪化し、解散となりました。
解散はしましたが、それまでに積み立ててきた分に関しては中小企業退職金共済に加入することでそれを移行することができます。
厚生年金基金に加入していた事業主の方は、中小企業退職金共済へ加入し以降することを検討するのも方法です。
加入後の通算制度
加入後の通算制度とは、加入する以前の雇用期間を通算する制度のことです。
雇用期間が長く、加入期間が長くなればそれだけ退職金も多くなります。
通算制度を利用することで退職金を増やすことが出来ることになりますが、この制度を利用することができるのは新規で中小企業退職金共済に加入した時だけになるので、新規加入の際にはきちんと検討する必要があります。
加入前の勤続年数も加味される制度
中小企業退職金共済に新規加入する場合に、加入前の勤続年数を通算することができます。
通算することができるのは、1年以上勤務している従業員です。
通算は1年単位で10年が限度です。
つまり10年前に遡って通算することができます。
対象となる期間は、企業に採用された日から中小企業退職金共済加入成立の前日までとなり、加入した企業の従業員すべてが対象です。
通算制度を利用する際には、本契約申し込みの際に通算の申し込みも行います。
通算を行うと通常の掛け金とは別に通算分の掛け金を支払う必要があります。
転職でも持ち越しができる制度
中小企業退職金共済では、企業が新規加入した際にその企業で以前から働いている従業員の雇用期間を通算することができますが、それだけでなく、転職などを行った場合にも通算することができる可能性があります。
前職でも中小企業退職金共済に加入しており、次の条件を満たしていれば通算することができます。
- 12カ月以上の納付期間がある
- 前の企業を退職してから3年以内である
- 前の企業で退職金の請求を行っていない
条件を満たしていれば、加入期間も長くなり、退職金も増えますから確認してみることも大切です。
減額や天引きができない中退共のデメリット
中小企業退職金共済は事業主にとっても従業員にとっても大きな味方となってくれる制度ですが、その一方でデメリットになる部分もあります。
減額もその1つに上げることができます。
増額は簡単に手続きを行うことができますが、減額では従業員の同意が必要であったりと手続きしにくいのも現実です。
また退職金は会社を通すことなく従業員に直接支払われる仕組みになっており、それを止めることができません。
時には、懲戒解雇での退職ということもありますが、こういった場合でも中小企業退職金共済からの退職金は支払われることになります。
デメリットを考えると中小企業退職金共済で従業員への退職金の全てを準備するのではなく、一部を準備と考えておくことも大切です。
仕組を知って退職金制度の有効活用をしよう
中小企業で従業員の退職金を準備するのは大変です。
まとまった金額を準備するためには少しずつの積み立ても必要ですが、そういった際に利用したいのが中小企業退職金共済です。
掛金の補助を受けることもでき、事業主の負担を軽減させながらも退職金の準備を行うことができます。
退職金制度にもいくつかの種類があるので、どういった制度があるのかどのような特徴があるのかなどを理解して適切なものを選択しましょう。