相続税対策は早めの準備が大切
相続税対策の基本は、早めの準備と冷静な手続きです。
まずは遺産の状況を把握し、どのようなバランスで財産分与を行うのがベストなのかを判断することから相続税対策は始まります。
自筆証書遺言と公正証書との違いなど、相続にあたって必要になる基礎知識について詳しくみていきましょう。
相続税対策をおこなう手順
遺産相続は手順をきちんと守ることが大切です。
ただたんに「遺産を分け合えばそれで終わり」と考えていると、いざその場面がきたときに予想外のトラブルが発覚してよけいなコストと時間がかかってしまう場合があります。
相続税対策の正式な手順と注意点を把握し、よりかしこい節税を心がけましょう。
現状の分析を行う
相続税対策というと、遺言書を裁判所に提出して遺産を均等に分割すれば万事解決のように思われるかもしれませんが、実際の相続はそれほど単純なものではなく、いくつものプロセスを順番にこなしていくことでようやく完了するようにつくられています。
遺産相続における現状分析とは、まず故人が遺した財産を目に見えるかたちで整理し、税務上の問題(過少申告など)が見られないかどうか、遺言書が効力を発揮するかたちで書かれているかどうかなどを厳正にチェックしたうえで相続税算出の基礎を明らかにするプロセスです。
一般家庭でも遺産相続となると膨大な資料と向き合わなくてはならないため、早い段階で司法書士、行政書士などのプロフェッショナルに相談し、専門的なアドバイスのもとで安全に手続きを進めるようにしましょう。
遺産分割対策で遺言書の作成を行う
現状分析によって整理すべき遺産の状況が視覚化されたら、いよいよ本格的に遺言書の作成を行い、専門家のチェックを経て正式な遺言書として提出することになります。
遺言書の種類によって裁判所における位置づけが異なりますので、それぞれの違いについて把握し、現状にふさわしい遺言書をつくりましょう。
リスクや効力に不安のある自筆証書遺言
遺言書のなかでもっとも簡単に作成でき、法的効力も認められる自筆証書遺言。
個人でも簡単に作成できる反面、書式や内容には厳密さがもとめられており、1カ所でもミスがあった場合には公的な遺言書としては認められません。
また、自筆証書遺言の場合は作成後に家庭裁判所のチェックが必要となり、遺言書としての効力を発揮するまでに時間がかかるというデメリットもあります。
どうしても自筆証書遺言のかたちで遺産相続を行いたい場合は、すべてを個人ですませるのではなく、必ずプロフェッショナルの立ち会いのもと、細かいチェックを受けながら慎重に作成しましょう。
登記手続きがスムーズな公正証書遺言
自筆証書遺言よりも法的効力の強い遺言書として知られる公正証書遺言。
各自治体の役場などにいる公証人の立ち会いのもとで作成される遺言書で、最初から専門家の手が入っているということで公的書類としての信頼性が高まります。
公正証書遺言であれば作成後に家庭裁判所の検認をもらう必要がないため、登記などの手続きを一部簡略化することができ、自筆証書遺言に比べてスピーディに一連のプロセスをすませられるというメリットがあります。
ただ、公正証書遺言は専門家に作成を依頼するためコストがかかるというデメリットがあります。
ただ、遺産相続の手続きはなるべく早くすませたいものですので、自筆証書遺言でミスを指摘されてよけいな時間を取られることを考えると、プロフェッショナルに公正証書遺言を作成してもらったほうが確実かもしれません。
秘密裏に遺言書を作成できる秘密証書遺言
自筆証書遺言と公正証書遺言は、本人以外の第三者に遺言の内容を知られてしまうというデメリットがあります。
その点、秘密証書遺言であれば公証人と証人の2名に「遺言書があること」を証明してもらうシステムで、遺言の内容そのものは書いた本人以外には知ることができません。
遺言内容をどうしても第三者に知られたくない、という場合は秘密証書遺言は便利な手段と言えますが、費用がかかってしまうこと、内容そのもののチェックが受けられないなどのデメリットがあり、提出までに時間がかかってしまうという欠点もあります。
財産評価引下げ対策を行う
遺言書をきちんと作成したら、遺された財産が極力相続税の課税対象にならないように、財産の評価引き下げの対策を行う必要があります。
トータルの財産そのものの評価を引き下げればそれに対する課税額も軽減されるため、結果としてかしこい節税につながります。
土地や建物の評価方法
生前に住んでいた家をそのまま相続したり、所有していた土地を財産として受け継ぐ場合は「不動産評価額」というものがトータルの課税額に影響してきます。
基本的に、更地などでまったく使われていない遊休地よりも建物や施設などのかたちで利用されている土地のほうが評価額が低く設定されています。
したがって、遺産相続の場面ではできるかぎり不動産を有効利用することで相続税を減らすことにつながります。
土地の評価額は「路線価*面積*補正値」という計算式で算出され、補正値とは土地の形状や利用可能面積などの状況を表しています。
建物の評価額は固定資産税の額とイコールになっており、長年使われていない建物よりも定期的に活用されている建物のほうが実質的な評価額が下がり、節税につなげることができます。
貸家建付地や貸家の評価方法
賃貸用アパートやマンションなどは法律上、貸家建付地として定義されます。
貸家建付地の評価額は、「自用地の評価額*(1-借地権割合*借家権割合)」という計算式で割り出されます。
借地権割合は路線価のエリアごとに定められているパーセンテージであり、借家権割合は全国一律で30%と決められています。
貸家の評価額は「固定資産税評価額*(1-借地権割合)」という計算式で算出することができ、固定資産税を引き下げることで結果として課税額を軽減することができます。
アパート等建設による評価引下げ効果
土地は原則として、法律上は建設物が建てられているほうが評価額が引き下げられる仕組みになっています。
つまり、現役時代に所有したものの余っている土地があればできるかぎりアパートなどのかたちで活用し、固定資産税や相続税を軽減させるようにしましょう。
小規模宅地等の評価減の特例の適用
小規模宅地についても税制上の軽減措置が適用されます。
小規模宅地を事業用地として申請することで土地としての評価額が下がり、結果としてトータルの課税額を引き下げることにつながります。
生前贈与対策を行う
相続においては生前贈与の軽減措置を利用することもテクニックのひとつです。
生前贈与で定められている基礎控除などを上手に組み合わせることで課税額を大きく軽減することができ、相続時に資産が残されていなかったとしてもあわてる必要がなくなります。
基礎控除を利用した贈与を行う
生前贈与については最大で110万円の基礎控除が認められています。
相続税にかぎらず、納税においては基礎控除をうまく活用することで最終的な納税額を大きく引き下げることができます。
ただ、相続税のシステムとして、故人の生前より3年以内に発生した贈与については非課税枠としては認められないことになっていますので、一度のタイミングで大きな金額を贈与するのではなく、少額を数年に分けて贈与することで節税につなげることができます。
相続時精算課税制度を活用する
基礎控除では足りないほどの遺産を相続する場合は「相続時精算課税制度」を利用しましょう。
これは、生前に確定している贈与税をいったん相続税として納税し、故人が亡くなったタイミングで相続税として精算する、というシステムで、相続税と贈与税のギャップを利用した節税方法と言えます。
居住用不動産の配偶者控除を活用する
相続の場面でも配偶者控除を利用することができます。
住まいとして利用する目的の不動産を配偶者に贈与した場合、その評価額または取得資金のうち2000万円までが控除の対象となり、課税額から差し引かれます。
居住用不動産を贈与する場合、現金よりも不動産のかたちで遺したほうが評価額が購入価格の7割~8割程度におさえられるため、より高い節税効果を得られます。
配偶者控除の適用条件は以下の通りです。
- 婚姻期間が20年以上
- 贈与財産が居住用不動産または居住用不動産の取得資金であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住を開始し、その後も引き続き居住する見込みである
- 贈与を受けた年の翌年に贈与税の申告を行う
期限付き非課税枠の適用を受ける
父や母、祖父母などの直系尊属の場合は、教育資金や結婚資金の贈与において「期限付き非課税枠」を利用することができます。
教育資金については30歳未満の子どもや孫、結婚資金については20歳以上から50歳未満の子どもおよび孫が控除対象となり、控除額はそれぞれ1,500万円と1,000万円となっています。
不動産を活用した相続税対策
老後の資産として所有している土地や建物が相続においては思わぬ節税効果をもたらすことがあります。
土地や建物によって、相続税が大幅に引き下げられる仕組みについて掘り下げていきます。
賃貸マンションやアパートを建築する
相続税軽減の基本は、土地や建物の評価額をできるかぎり引き下げることです。
評価を引き下げるというとネガティブなイメージにとらえられるかもしれませんが、相続税の計算においては評価額に応じて課税額が高くなる可能性があるため、評価額を下げることで節税につながるのです。
更地に賃貸マンションやアパートを建てると法的には「貸家建付地」と見なされ、ベースとなる評価額が大きく引き下げられることになります。
マンションを購入する
マンションを購入すると、その購入資金のうち最大2,000万円までが基礎控除の対象となり、大幅な節税につながります。
生前贈与の基礎控除110万円と組み合わせると最高で2,110万円の控除を受けることができます。
相続時精算課税制度で不動産を贈与する
相続税の算出方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。
不動産の生前贈与の場合は相続時精算課税のほうがメリットが大きく、基礎控除と組み合わせればトータルの課税額を最大で半分以下におさえることも可能です。
不動産購入建築資金を配偶者へ生前贈与する
相続の際、遺産を利用して新たな住まいを建てようと考えている場合は、その購入資金を配偶者にあらかじめ生前贈与しておくことで税法上の負担を大きく軽減することができます。
購入資金は現金のかたちで贈与することもできますが、税法上の仕組みを考えると現金よりも建物のかたちで遺したほうが節税効果が高くなり、配偶者の負担を減らすことにもつながります。
不動産を売却し納税資金に充てる
生前贈与を検討する段階で不動産をいくつか所有している場合には、余っている不動産を売却し、整理することで納税資金にまわす、という方法も考えられます。
売却によって生じた利益もその一部が控除対象となるので、将来にわたって使う見込みのない不動産があればできるかぎりすみやかに売却することをおすすめします。
生命保険金を活用した相続税対策
もしもの安心のために契約する生命保険も、基礎控除などを上手に活用すれば相続税対策になり得ます。
生命保険によってなぜ相続税が引き下げられるのか、その理屈から説明していきましょう。
法定相続人1人あたり500万円の非課税枠
生命保険には非課税枠が設定されており、「法定相続人の人数*500万円」というかたちで算出されます。
つまり、夫婦と長男長女の4人家族の場合、法定相続人は3人ですので控除額は1,500万円となります。
現金で1,500万円相続すればその分がダイレクトに課税額と見なされますが、その1,500万円で生命保険に加入することにより非課税枠に組み入れることができ、大幅な節税につながります。
最近では70歳以上からでも加入できる保険が増えているため、節税対策のための生命保険も有力な選択肢と言えるでしょう。
相続放棄の相続人も非課税枠の人数に含める
法定相続人の人数に応じて非課税枠が決まる生命保険。
相続放棄をしている相続人を非課税枠にふくめることで法定相続人の人数を増やし、実質的な課税額を引き下げることができます。
ただ、無条件で非課税枠を増やせるわけではなく、法的にも一定のプロセスと審査が必要になりますので、そのあたりは事前によく確認しておきましょう。
保険金を早期に受取り納税資金に出来る
保険の種類によっては、被相続人の死亡後すぐに保険金が支払われるものがあります。
このタイプの保険であれば「予想以上に相続税が大きいために納税資金が足りない」という事態をふせぐことができ、節税対策にもつながります。
生命保険は相続争いを防ぐことが出来る
生命保険のかたちであれば、法定相続人以外にも財産を渡すことができます。
通常の遺言書による財産分与では相続争いが起きるリスクが高く、財産をあらかじめ生命保険に変えておくことで財産がスムーズに分割され、故人の意向をより強く反映することができます。
利息率の良い生命保険で納税資金の準備
節税対策をメインに考えて生命保険に加入するのであれば、できるかぎり利息率の高い保険を選んだほうがお得です。
それぞれの保険のくわしい利息率については保険会社のウェブサイトやパンフレットなどで詳しく公開されていますし、その時々の経済状況に応じてこまめに改定が行われるため定期的にチェックしておきましょう。
現金の形を変えて相続税対策
老後の資産は現金ではなく、保険や建物などのかたちで保有したほうが相続税が大幅に引き下げられ、効果的な節税対策になります。
生前贈与や配偶者控除などを上手に活用し、かしこい節税を心がけましょう。
相続税対策は早めの開始と税理士に相談を
相続税の仕組みは複雑のため、個人で把握することは難しいと言えるでしょう。
弁護士や司法書士など、遺産相続のプロフェッショナルに相談し、損のない節税プランを組み立てることが大切です。