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債権譲渡の仕組みをとにかくわかりやすく解説
「債権」が他人に移る「債権譲渡」とはいったいどんな仕組みなのでしょうか?はじめて債権譲渡について学ぶ人でも理解できるように、とにかくわかりやすく解説いたします。
まずは債権譲渡に関して基本的なことを知ろう
まずは債権譲渡について基礎的な知識の確認をしておきましょう。
債権とは相手方に特定の行為をさせる権利
債権とは、相手に特定の行為をさせる権利のことを指します。
例えば、AさんがBさんに100万円を貸したとしましょう。
お金を貸したのですから、当然あとからBさんにはお金を返してもらうことになりますよね。
この場合、AさんはBさんに対して「お金を返してもらう権利」を持っていることになりますが、この「権利」のことを債権といいます。
債権にはいろいろなものがありますが、今回の例のように債権が金銭の場合は「賃金債権」と呼ぶこともあります。
債務者とは債権者に対し特定の行為をする義務を負った人
先ほどのAさんとBさんの例で考えてみましょう。
Aさんは「(Bさんから)お金を返してもらう権利」を持っていましたよね。
「債権」を持っているのですから、Aさんは「債権者」と呼ばれます。
逆にBさんは「(Aさんに)お金を返す義務」があります。
このように、債権者に対して特定の行為をする義務を負った人を「債務者」と呼びます。
債権譲渡とは債権を他人に譲り渡すこと
現在日本の民法では、債権を一つの財産としてとらえ、他人に譲り渡すことを認めています。
例えば、AさんがCさんに債権を譲渡したとしましょう。
AさんはBさんに対してお金を返してもらう権利がありましたから、債権を譲渡すると、今度はCさんがBさんに対してお金を返してもらう権利を持つことになります。
Aさんの持っていた債権が、そっくりそのままCさんに移った形ですね。
歴史的な話を少しだけすると、古代ローマ法ではこの「債権の譲渡」というのは認められていませんでした。
AさんとBさんの間でお金の貸し借りがあったのですから、その権利が第三者であるCさんに移るのはおかしい、という理由です。
この問題については「更改」という手法が用いられ、AさんのBさんに対する債権を一度消滅させ、CさんとBさんで新たに同じ内容の契約を結ぶという手法を取っていました。
民法上債権は譲渡できるものと規定されている
民法第466条1項において「債権は原則として譲り渡すことのできる」ものとされており、債権を譲る側と受け取る側の合意があれば、債権譲渡を行うことができます。
ただし、AさんBさんの間で債権譲渡禁止の特約が結ばれている場合など、例外もありますので注意が必要です。
譲渡人は債権を譲渡した側・譲受人は譲られた側
AさんがBさんに対して持っている債権をCさんに譲渡したとき、Aさんは「債権譲渡人」、Cさんは「債権譲受人」と呼ぶことになります。
Aさんはもともと持っていた債権を「譲渡」する側、CさんはAさんから債権を「譲受」する側ですから、分かりやすいですよね。
債権譲渡の仕組みについて
基本的な知識を確認したところで、今度は債権譲渡の詳しい仕組みを見ていきましょう。
債権譲渡は債権を回収するために行われる
そもそも何のために債権の譲渡が行われるのでしょうか? その答えは「債務者の弁済能力がないときでも債権を確実に回収するため」です。
自分では回収できそうにない債権を、他の人に譲渡することで損失を防ぐことができますし、単に他の業務で債権の回収まで手が回らない、といった場合の解決法にもなります。
また、債権を担保にして契約を結ぶことも可能です。
今までの例で考えてみましょう。
AさんはBさんからお金を返してもらいたいわけですよね。
ですが、残念ながらBさんはお金を返せそうにない(=弁済能力がない)状態に陥っているとしましょう。
このままだとAさんは貸した100万円を丸々損してしまうことになります。
このときにAさんは、Bさんに対するこの債権をCさんに譲渡することで損失を防ぐことができるというのが債権譲渡の仕組みです。
債権譲渡にはメリットがある
債権譲渡を行うメリットには次のようなものがあります。
自分では回収できそうにない債権を、他の人に売り渡すことで損失を防ぐことができますし、単に他の業務で債権の回収まで手が回らない、といった場合の解決法にもなります。
また、債権を担保にして契約を結ぶことも可能です。
債権譲渡では事前の話し合いや取り決めが重要
債権譲渡の際には、トラブルを防ぐため事前の話し合いや取り決めが重要になってきます。
今度は債務者Bさんの視点から考えてみましょう。
BさんはAさんからお金を借りていましたが、BさんとCさんの間では直接お金を貸し借りしていませんよね。
債務者側から見ると、お金を借りた人(Aさん)とは別の人(Cさん)に返済をすることになります。
このように債権譲渡は、直接貸し借りをしていない人の間に権利義務を発生させることになるので、事前の話し合いや取り決めをしておくのがよいでしょう。
債権譲渡を行うには通知と承諾を得る
債権譲渡を行うには、債権者が「債権を他の人に譲渡します」と債務者に通知し、承諾を得る必要があります。
この通知と承諾の形式については厳密な決まりがありませんので、口頭で行うということも可能です。
ですが、あとからトラブルにならないよう基本的には書面で行います。
これまでの例でいくと、AさんがBさんに「Cさんへ債権を譲渡します」という通知を出して、Bさんから承諾をもらわないといけないということです。
債権が譲渡されるとBさんはこれからCさんに返済をすることになるわけですから、承諾が必要なのは想像しやすいかと思います。
契約書作成は手書きでも文章ソフトでもかまわない
書面でのやりとりをする場合、文面は手書きでもパソコンソフト等でも問題ありません。
その場合でも、当事者の住所や署名は自筆で記入し押印は実印でするなど、トラブルが起きないような形式にしておきましょう。
債権譲渡における対抗要件について
債権譲渡の仕組みを学んだところで、次は対抗要件について見ていきましょう。
債権譲渡を主張するために必要な対抗要件
「対抗要件」というのは、自分の権利を正当なものとして他者に主張するために必要な事柄のことです。
債権譲渡の場合、新しい債権者(債権譲受人)が債務者に対して、債権を譲渡されたことを主張するための要件ということになります。
せっかく債権を譲り受けても、対抗要件を備えていないと債権が回収できない可能性もあります。
債権譲渡を行う際には、債権者(譲渡人)から債務者へ通知をし、債務者が承諾する必要があるという話はすでに述べましたよね。
それが債務者の対抗要件になります。
対抗要件の目的はトラブル防止のため
もし対抗要件を備えないまま、新しく債権者になった人が債務者に支払を請求したら、どうなるでしょうか?
対抗要件は債権者からの通知と債務者の承諾ですから、それがないということは債務者のあずかり知らぬところでいつの間にか債権者(つまり返済する相手)が変わっていたということです。
債務者からすると、ある日突然、お金を借りた覚えのない相手から支払を要求されることになりますから、トラブルに発展してしまうことも考えられます。
そういったトラブルを防止するために、対抗要件というものが存在しているのです。
対抗要件には債務者への通知と承諾が必要
債権を譲り受け、新しく債権者となった人が債務者に対して権利を主張するには、2つの要件を満たす必要があります。
1つは債権者が変わったことを債務者に通知すること。
もう1つは、債権者が変更になったことについて債務者からの承諾を得ることです。
この2つを満たしていなければ、債務者に対して正当な権利であることを主張できません。
第三者への通知や承諾には確定日付のある証書がいる
ここまでは債権者(債権譲渡人・譲受人)と債務者の間の話でしたが、第三者に対抗する場合にはまた要件が異なってきます。
第三者に対して権利を主張するためには、債務者に通知をする際に「確定日付のある証書による通知」を行い、承諾を得る場合にも「債務者の確定日付のある証書による承諾」が必要になります。
承諾する相手は債権譲渡人でも譲受人でもどちらでもかまいません。
確定日付とは後で変えることのできない日付
「確定日付」という言葉が出てきましたが、これはあとから変更することのできない日付のことを指します。
確定日付のある証書というと、公正証書や内容証明郵便などがあります。
普通郵便の消印は確定日付として認められませんので、注意してください。
確定日付のある証書が届いた方に返済の優先権がある
債権譲受人が一人の場合はいいのですが、もし譲受人が複数人いた場合は確定日付のある証書が届いた順に返済の優先権が与えられます。
今までの例を思い出してください。
債権者Aさんは債務者Bさんに対する債権をCさんに譲渡しました。
ところが、実はAさんがDさんにも債権を譲渡していることが分かりました。
CさんもDさんも、自分の債権を主張するためには債務者のBさんに確定日付のある証書で通知を行い、Bさんから同じく確定日付のある証書で承諾をもらう必要があります。
では、Bさんはどちらへ優先的に返済したらよいかというと、CさんDさんのうち、先に確定日付のある証書で通知を受け取ったほうになります。
非常に間違いやすいのですが、確定日付の前後で決まるわけではありません。
確定日付のある通知が「債務者のもとに到着したタイミング」によって返済の優先順位が決められることは覚えておいてください。
債権に保証人が含まれていたら対抗要件を所得する
先ほどの例で、債務者Bさんに保証人がついていた場合、CさんDさんはBさんの保証人に対しても対抗要件を取得しなければなりません。
保証人ということは、万が一Bさんが支払をできなかった場合に、Bさんに代わって支払をすることになります。
ということは、債権譲渡が行われると、債務者だけでなく保証人にとっても支払をする相手が変更になるということですよね。
この場合は債務者と同様に、支払をする可能性がある保証人にも債権を主張できるよう対抗要件を備えておく必要があります。
もし保証人への対抗要件がそろっていなかった場合、CさんやDさんは債権を譲渡してもらっていても保証人に債権を主張することはできません。
対抗要件は否認される場合もある
対抗要件を備えていても、否認される場合があります。
これに関係してくるのは破産法です。
破産法164条には「支払の停止等があった後になされた対抗要件具備行為がその原因行為から15日以上経過した後に支払停止等を知ってなされた場合は,対抗要件具備行為を独立して否認することができる」とありますが、難しいのでまた例え話で説明しましょう。
債権者Aさんが債務者Bさん(保証人なし)の債権を持っている間に、Bさんが破産して支払がストップしてしまいました(『支払の停止』)。
AさんはBさんが破産したことを知り、他の人に債権を譲渡しようとします。
ただ、第三者への対抗要件がそろっていなかったため、Bさんの破産を知ったあとにBさんへ債権譲渡の通知を出しました。
この対抗要件を備えるための行為(『対抗要件具備行為』)が行われたタイミングがポイントになります。
もし対抗要件具備行為がBさんの破産(『原因行為』)から15日以上経過してから行われていた場合、債権譲渡の際に対抗要件を備えていなかったとみなされてしまいます。
債権譲渡登記制度で大量の債権を簡便に
法人が大量の債権譲渡を行う場合には、「債権譲渡登記制度」を利用すると便利です。
通常は債権を譲渡する際に債務者へ確定日付のある証書で通知をする必要がありますが、譲渡先がたくさんあった場合には手間がかかってしまいます。
それを簡略化するため、登記に債権譲渡の公示をし、一括で債権譲渡をできるようにするというのがこの制度です。
債権譲渡に関する法制改正の3つのポイント
債権譲渡について法改正されることになった部分を確認しておきましょう。
改正の経緯
平成29年5月26日に債権法の改正が成立しました。
この施行時期については政令で定めることになっていましたが、その後に出された政令により、平成32年4月1日から施行する運びとなりました。
譲渡制限特約の取り扱いの変更
譲渡制限特約がついている債権の譲渡について、譲受人が悪意(譲渡制限特約がついていることを知っている)または重過失の場合、現行法において譲渡は無効とされています。
今までは債務者の利益を考えてこのようになっていましたが、債権者にとっては譲渡によって資金の回収をするという面もあります。
その点を考慮して、改正後は譲受人が悪意または重過失の場合でも債権譲渡は有効とされることになりました。
相殺について
現行法では、相殺できる債権があったとしても「異議をとどめない承諾」という形で債権譲渡を承諾した場合、相殺ができなくなってしまいます。
また例を出して考えてみましょう。
AさんはBさんに対する債権を持っており、その債権をCさんに譲渡しようとしています。
もしここでBさんがCさんに対する債権を持っていた場合、BさんCさんがお互いに債権を持つことになります。
そうなった場合、BさんはCさんの債権額から自分の債権額を引いた分だけ返済すれば話が早いですよね。
ただ、Bさんが相殺できる債権を持っていても、Aさんからの通知に対して拒否をしなければ、BさんCさん間での相殺はできなくなっています。
改正後はこの形が変わり、相殺ができる債権の範囲が広くなりました。
将来債権の譲渡
現行法では、その時点でまだ発生していない債権(将来債権)の譲渡に関して特に記述がなかったため、判例や他の法律に基づいて扱われてきました。
改正後は、債権を譲渡する際に「債権が現に発生していることは要しない」ということで、将来債権の譲渡を認めています。
債権譲渡の通知が送られてきた場合の対処
ここからは、もし債権譲渡の通知が送られてきた場合どうするべきか解説していきます。
放っておかないことが肝心
債権譲渡の通知が送られてきた場合、一番やってはいけないのが「放置する」ことです。
届いた通知を見て驚いたり怖くなったりするかもしれませんが、そのまま放置していると、裁判沙汰になったり財産を差し押さえられたりといった事態に発展することも考えられます。
身に覚えがないときは
もし通知を見ても身に覚えがないときは、詐欺の可能性を考えてみてください。
確認するポイントは、差出人が元々の債権者になっているかどうか、それと内容証明郵便で届いているかの2点です。
国から認められている債権回収業者もありますが、数が少ないためネットで簡単に調べることができます。
どちらにも当てはまらなかったときは詐欺の可能性が高いですので、落ち着いて確認をしましょう。
債権譲渡を理解して落ち着いて対応しよう
債権譲渡について理解していただけたでしょうか?債権譲渡の仕組みを理解していれば、万が一自分が当事者になったときにも落ち着いて対応できますので、この記事で学んだことを覚えておいていただければと思います。