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損をしない相続放棄。した方がいいケースと得する予備知識を解説

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遺産を相続したくない時はどうすればいいの

親や親せきの者が死亡した際に浮上する遺産継続の問題ですが、相続を拒否したい場合はどうなるのでしょうか。
通常であれば親族の財産を受け継ぐことのできる遺産相続は、相続人にとってメリットのある制度ですが、事情は人によってさまざまです。
遺産を受け取りたくない場合や、受け取るべきでないケースもあるでしょう。

遺産相続は多くの人にとってあまり身近なテーマではありませんね。
したがって、いざ自分がトラブルに巻き込まれた際、適切な判断を下せなくなってしまい、自分にとって不利な状況に身を置いてしまう危険性があります。
本記事を通して遺産相続における相続破棄という制度への知識をより深めて、いざという時に最適な選択を下せるようにしてくださいね。

相続放棄とは

『相続放棄』とは、先ほど説明した通り遺産相続の権利を破棄する制度のことです。
しかし、相続放棄とは言っても、実際にどのような場面で相続放棄という選択肢を取るべきなのか、法律に詳しくない人では判断を下すのは困難です。
また、相続放棄をする際には気を付けなければいけないことがあります。
それを知らずに相続放棄を行ってしまっても、法律に関する制度ですから無知では済まされません。

相続放棄をする上で把握しておくべき事柄、また注意点を見ていきましょう。

借金が遺産に含まれていたら相続放棄

遺産について考えるにあたって、まずは遺産とは個人のプラス財産のではなく、マイナス財産も含むのだということを認識しておくべきでしょう。
これを知らずに相続してしまえば、残された多額の負債で日常が大きく変わってしまう危険性すらあるのです。

仮に親の遺産を相続するとして、もしも親の死後に多額の借金が発覚した場合、どうでしょうか。
親の資産を大きく上回る借金です、このまま相続してしまうと残された子は大きな負債を抱えることになります。
上記のようなケースであれば、相続放棄という選択肢が出てきてもおかしくはありません。
例のように、相続によって相続人が借金を負い、不利益を得る事態を避けるために民法により定められたのが、『相続放棄』です。

相続放棄をするかは自分次第

遺産相続をするか否かの決定は、自分一人ですることが可能です。
例え自分の他に相続権を持つ者がいたとしても、その人と共同で手続きをしていく必要はありません。
もちろん他の相続人全員が遺産相続をできなくなるのではなく、あくまでも自分一人の意思で、遺産を相続するかしないかの選択を行うことができます。

相続放棄は、”遺産相続を受けない”という個人の意思を尊重する事のできる制度にもなっているのです。

一度相続放棄すると取り消せない

一度相続放棄の手続きを完了してしまうと、基本的にはその人はもう遺産を相続することはできなくなってしまいます。
例えば、のちのち証券や不動産などのプラス財産の存在が明るみになったとしても、相続放棄を取り消すことはできないのです。
したがって、相続放棄の判断は慎重に行うようにしましょう。
しかし、例外的な事情として、他者から圧力、あるいは誤った情報を受け相続放棄を行った場合には、家庭裁判所に申し入れることで放棄の撤回が可能となるケースもあります。

このような特殊な事情がない限り、『相続放棄を撤回することはできない』ということを頭に入れておいてください。

相続開始時の三つの選択肢

続いて、遺産相続に関する選択肢を見ていきましょう。
親族をなくし、残された財産を相続する場面に直面した際、相続人の前には3つの選択肢が現れます。
その一つに含まれるのが、相続放棄です。
個人の遺産状況などにより最善の選択というのは変わってきますので、どれが良いとは一概には言えません。

それぞれに存在するメリット、デメリットを認識し、自分のケースに合ったものを選択することが重要です。

借金も含めて相続する単純承認

遺産相続において最もメジャーな選択が、この『単純承認』です。
この単純相続の特徴は、個人のマイナス財産を含めた全ての財産を相続すると選択することです。
遺産を引き継いだ相続人は、当然ながら借金の返済義務を負うことになります。
故人に借金などのマイナス財産がない、あるいは少ない場合には、この単純承認を選択することで大きなメリットが生まれます。

この単純承認を行う際に必要な取引は特にありません。
故人が亡くなり、遺産相続権が発生してから3ヵ月の間に何の手続きも行わなかった場合には、自動的に単純承認として、相続人は故人の遺産を全て引き受ける形となります。

相続財産を超える債務は相続しなくて済む限定承認

『限定承認』は、その名の通り遺産のうち一部のみを引き受ける形式です。
といっても、遺産のうちプラス財産のみを相続する、といったような都合の良いばかりの方法ではありません。
故人の借金などの負債をプラス財産で補い、残った財産を相続するという選択です。

この限定承認は、現在借金の存在は確認できないが、のちのち負債が発覚してしまう可能性があるために単純承認を選択しにくい場合に効果的です。
また、多額の借金がある事が分かっている状態でも、形見として何か物品を残しておきたいのであれば限定承認がおすすめです。
借金を相続しないために相続放棄をしてしまうと、物品などの相続も受けられなくなってしまいます。
しかし、この限定承認を選択した場合には、残しておきたい品と同等の価値に金額を支払えば相続することが可能です。

一切の遺産の相続を破棄する相続放棄

『相続放棄』が、故人の一切の遺産の相続権を破棄するという選択です。
相続放棄を行ってしまえば、その人は相続に関する全ての権利を失います。
一般的に、故人の遺産の多くがマイナス財産で占められている場合などに推奨される選択です。
気を付けなければいけないのが、先ほども言いましたように一度相続放棄をしてしまうとそれを撤回することは難しいので、残しておきたい品などがある際は限定承認のほうが有効であることがあります。

相続放棄のメリット

遺産相続における3つの選択肢を知ることで、それぞれの特徴が見えてきました。
ここでは更に相続放棄に焦点を当てて、相続放棄を行うメリット、デメリットを把握していきましょう。

借金の相続をせずに済む

相続放棄を行うことで、相続人は故人が持っていた負債を受け入れずに済みます。
もし相続放棄という選択肢がなかった場合、多額の借金を担うことで相続財産以上の返済が必要となり、結果的に赤字となってしまいます。
そのような事態を避けるためには、相続放棄という手段は実に効果的です。

遺産相続時のトラブルに巻き込まれずに済む

また、遺産相続人が複数いる場合には、遺産分与に関するトラブルに襲われるケースがあります。
実際、遺産分与トラブルに関する調停の件数は年々増加しており、決して一部の富裕層だけが見舞われる問題ではありません。

そのような状況を事前に防ぐために、あらかじめ相続破棄の意思を表明しておくというケースもあります。

特定の人物に遺産を集中させることができる

土地や建物、先祖代々受け継がれた貴重な物品である場合、複数の相続人で平等に分けるという選択がとりにくいことがあります。
そのような時に代表者一人を除いた相続人が相続放棄を行うことで、財産を一つにまとめておくことができます。

相続放棄のデメリット

続いて、今度は相続放棄を選択した際に発生する可能性のあるデメリットについて解説します。
物事には必ず二面性があり、良い面ばかりではありません。
重要なのは、そのどちらもを認識し適切な選択をしていくことです。

貴重な資産を失う恐れがある

相続放棄をしてしまえば、故人の遺品を受け継ぐことは原則できなくなってしまいます。
したがって、残しておきたい物品がある際は容易に相続放棄という選択を取らないようにしましょう。

プラスの遺産を相続できない

故人の遺産がマイナス財産だけであった場合には問題ないのですが、プラス財産が存在する場合、注意が必要です。
もし借金を上回る資産が存在しても、一度相続放棄をしてしまえばそれを受け取ることはできなくなってしまいます。

他の相続人に負担をかけてしまう

相続放棄をするという選択は、故人が亡くなり相続が発生した時点から3カ月以内にしなくてはなりません。
その短い期間の間に、もし複数の相続人が立て続けに相続放棄を行うと、残りの相続人はその都度財産分与額などを精査しなおす必要があります。
このように、相続放棄は他の相続人の負担となる場合もあるのです。

相続放棄すべきケースとは

では、具体的に相続放棄をすべき場面とはどのようなものなのでしょうか。
ここでは、相続放棄を決意すべきであるケースを見ていきましょう。

借金があまりにも多い

相続放棄に取り掛かる前に、必ず遺産の調査は行ってください。
場合によっては既に故人の大まかな遺産を知っている、ということもあるでしょうが、遺産の全体図を明確にすることで、相続すべきか否かを判断しやすくします。
その結果、マイナス財産がプラス財産と比べあまりにも多かった場合、相続放棄を選択肢に入れましょう。

特定の人物に資産を集中させたい

例えプラス財産が多かったとしても、相続放棄を行うことが効果的なケースがあります。
それは、自分よりも相続順位の低い相続人により多くの遺産を残す目的がある場合です。
相続を放棄することで、自分がもらうはずだった分がほかの相続人に分配されることになります。

相続を巡るトラブルに巻き込まれたくない

金銭をめぐる問題ですので、遺産相続にまつわるトラブルは後を絶ちません。
相続人同士の関係性などから遺産分与トラブルが発生すると考えられる際には、あらかじめ相続放棄を検討しておくと良いでしょう。

熟慮期間とは

熟慮期間は、相続に関する決定を行うために設けられた3カ月の期間です。
あまり聞きなれない言葉かもしれませんか、遺産相続においては重要なキーワードですので、記憶に留めておくと良いでしょう。

相続放棄できる期限は3カ月

相続放棄という選択を取ることができる期間は、法律により3カ月の間だけと決められています。
この相続権の決定を行う期間を、『熟慮期間』と言います。
相続人は熟慮期間のうちに単純承認や限定承認、あるいは相続放棄を行うことを決定しなければなりません。
もしもこの期間中に何も行動を起こさなかった場合、自動的に単純承認の選択がとられることとなります。

この3ヶ月間で相続人は故人の遺産を全て調査する必要もあるので、熟慮期間は故人を偲ぶことが難しいほど慌ただしく過ごす相続人も多いです。

熟慮期間が始まる時はいつ?

今までの説明から『熟慮期間は被相続人が亡くなってから3カ月である』と認識してしまった人もいるかもしれませんが、厳密にいえばこれは違います。
熟慮期間とは、『被相続人が死亡し、相続人がそれを知り、なおかつ自身が相続人に当たることを認識した日から3カ月』の間のことです。

被相続人の子供を相続人として例を挙げます。
もしその相続人が親の死後1カ月経ってその事実を知った場合、その人物の熟慮期間は親の死を知った日から3カ月間です。
このようにして熟慮期間は決定されるため、相続人によって熟慮期間が違ってくるケースもあります。

ところが通常とは異なる方法で熟慮期間が決定された特殊な事例があります。
その判例によると、相続人Aは被相続人の死を知りながらも相続財産が一切ないと確信していたために、熟慮期間に限定承認あるいは相続放棄を行いませんでした。

しかし実際には財産が存在し、結果的に最高裁判所の判断で相続人Aの熟慮期間は”Aが被相続人に財産がある事を認知して以降の3カ月”という判断が下されました。

【参照リンク:http://相続放棄.jp.net/%E6%83%85%E5%A0%B1/%E7%9B%B8%E7%B6%9A%E6%94%BE%E6%A3%84%E3%81%8C%E5%87%BA%E6%9D%A5%E3%82%8B%E6%9C%9F%E9%96%93%EF%BC%88%EF%BC%93%E3%83%B6%E6%9C%88%E3%81%AE%E7%86%9F%E6%85%AE%E6%9C%9F%E9%96%93%E3%81%AE%E5%A7%8B%E6%9C%9F/
このように例外的なケースはあるものの、原則は被相続人の死を知ってからの3カ月間が熟慮期間、と覚えておいてください。

熟慮期間は引き伸ばせる

相続を放棄するか否かを決定する事のできる熟慮期間は、実は延長することができるケースがあります。

具体的な方法、家庭裁判所で『熟慮期間延長の申立』を行うことで、延長の可否が下されます。
ですがどのような状況でも延長が可能なわけではなく、熟慮期間内に相続人が相続に関しての判断を下しにくい状態であった、と認められる場合に限ります。
例えば他の相続人との連絡が付きにくい状況や、相続される遺産が複雑で会ったり全体像が見通しにくい場合には、延長の申立が受理されることがあります。

熟慮期間の延長は熟慮期間内にしか行うことができないので、注意してください。
また、一度延長した熟慮期間を再度延長することも可能です。

生前にできる、相続放棄の代案とは

実は、生前に相続放棄をすることはできません。
しかし相続が発生する前にある程度の対処を行い、のちの遺産相続の負担を軽減する方法もあります。

生前に相続放棄できないのはなぜか

のちのち発生するであろう相続トラブルにそなえ、故人が存命中に相続放棄をしたい、という人もいるかもしれませんが、残念ながらそれはできません。
なぜなら、生前はそもそも故人の遺産相続が始まっていないため、相続放棄という手続きを取ることはできないのです。
相続放棄は熟慮期間にあたる、故人が亡くなって相続が発生してからの3カ月の間で手続きを行ってください。

遺留分を放棄する

遺産相続には、『遺留分』というものがあります。
これは一定の親族関係にある相続人のみに設定された、最低限の遺産分配を保証するシステムです。
遺留分を放棄する、とはこの法律で定められた最低限の財産分与権を放棄することです。
相続放棄とは違い、遺留分の放棄は遺産を残す『被相続人』が生きている間に行うことができます。

ただし、この遺留分の放棄はプラス財産にのみ適応され、借金などの負債の相続までは放棄できません。

遺言書をあらかじめ作っておく

相続トラブルを起こさないよう、被相続人が遺言書を残し、財産分与額を生前のうちに決定しておく、という方法もあります。
遺産相続において、被相続人本人の遺言書は強い効力を持ちます。
被相続人が残した遺言書をもとに遺産分与が行われれば、相続人よりも被相続人の意思が尊重されますので、トラブルは発生しにくくなります。

被相続人と相談する

相続を行う側である被相続人と相談し、生前から相続人の選定や資産整理をおこなっておけば、いざ相続が発生した際にもスムーズにことを進めることができます。
被相続人に遺言書を書いてもらうよう相談することもできますし、負債が多い場合にはあらかじめ債権整理をしてもらえれば、相続人の負担を軽減することもできます。

相続放棄する前に知っておくべき事

相続放棄は法的な手続きですから、一度選択してしまえば撤回することは原則としてできません。
後悔をしないためにも、相続放棄を決定する前に頭に入れておきたい項目を以下に記しておきます。

相続放棄と代襲相続

相続放棄については既に説明した通りですが、『代襲相続』という言葉をご存知でしょうか。

代襲相続とは、被相続人の子など本来相続人に該当する人物が亡くなっていた場合に、その子どもなどが相続を受けることのできる制度です。
本来相続権を持つ者が死亡している時にのみ、この代襲相続は適応されます。
代襲相続によって代わりに相続権を手にすることができるのは、なにも本来相続人だった者の子どもだけではありません。
その人に子どもがいなければ、両親や兄弟姉妹に引き継がれます。

ただし、両親などの上の世代に相続権が移る場合は、一般的には代襲相続とは呼ばれません。

では、本来の相続人が相続放棄を選択した場合、その子どもに代襲相続が行えるのでしょうか。
子どものために祖父の遺産を残してやりたい、という想いからそのような選択を取りたいと願う相続人はいるでしょうが、残念ながらそれはできません。
なぜなら、相続放棄とは『相続権がそもそもなかった、という状態にする』制度だからです。
相続権がなかったことになるのですから、当然代襲相続を行えるはずがありません。

また、代襲相続が起こったために自身が相続放棄を考えなければならないケースもあります。

例えば、Aという人物の父親が亡くなったとします。
その人物は生前多額の借金を抱え、ついには返済を終えることができず、亡くなりました。
この場合Aは単純承認をしてしまうと、今度は自分が借金を抱えることになりますので、相続放棄を選択しました。
すると被相続人の両親は既に亡くなっており、子どももA以外にはいませんでしたので、次に相続権が発生するのはAの父親の弟、Bでした。

本来BはAの父親の相続人ではありませんでしたが、Aの相続放棄により相続権が発生してしまったのです。
このままではBは多額の負債を相続することになるので、Bは速やかに相続放棄を選択するべきです。

このように、代襲相続により相続権が移動する場合、思わぬ人物が相続人になってしまうケースがあります。
その場合も相続放棄をしなければ単純承認とみなされてしまうので、注意が必要です。

相続放棄と保険金

続いて、『みなし相続遺産』というキーワードについて解説いたします。
知っておかなければ思わぬトラブルを生む可能性のある相続関連用語ですので、概要をよく理解しておくことをおすすめします。

みなし相続財産とは、『被相続者の生前ではなく、死後に受取人に支払われる財産』のことです。
特徴として挙げられるのが、みなし相続財産はたとえ相続放棄を選択した場合にでも、受け取ることができる、ということです。
と言いますのも、みなし相続財産は被相続人の遺産ではなく、被相続人が死亡したことにより受取人である相続人に支払われる財産であるため、直接的な相続には当たらないのです。

ただし、気を付けなければいけないのが、相続放棄を行ったとしてもみなし相続財産がある場合、その分の相続税が発生してしまいます。
このことを知らず受け取ってしまうと、のちにトラブルに発展してしまうこともありますので、気を付けてください。

しかし、実はこのみなし相続財産には非課税枠というものが存在します。
具体的に言うと、500万円×法定相続人の数が、みなし相続財産の非課税枠となります。

法定単純承認とは

単純承認は、被相続人のプラス財産だけでなく借金などのマイナス財産を含めた全てを相続することです。
被相続人に多額の借金がある場合はするべきではありませんが、場面によっては自動的に単純承認をしたと見なされてしまう、『法廷単純承認』というものが存在します。

どのようなケースが法廷単純承認とみなされてしまうのかというと、まずひとつに「被相続人の財産の一部、もしくはすべてを処分した」場合が挙げられます。
人の財産を勝手に処分するというのは問題がありますから、それらの行動をした時点で相続意思がある、とみなされます。

次に、「相続権が発生後3カ月の熟慮期間を過ぎたのちも、限定承認あるいは相続放棄を選択しなかった場合」です。
つまり、遺産相続の詳細を知らず、何一つ行動を起こさなかった場合には法廷単純承認が適応されてしまいます。

そして最後に、相続財産を消費したり、故意に相続財産目録への記載を行わないなどの悪意のある行為をした際には、法廷単純承認が適応されます。
道理ではない行動をした者には限定承認や相続放棄という、法的救済を受けることはできません。

相続分の放棄は相続放棄と違う

相続放棄とは別に、『相続分の放棄』という言葉があります。
この両者の違いはなんでしょうか。
実は、相続分の放棄は『相続財産を受けられる権利』を拒否する、というもので、相続債務までは適応されません。
つまり、被相続人から受け継いだ債権の負担までを拒否することはできません。
この違いは、しっかりと頭に入れておいてください。

相続放棄と遺贈

遺贈とは、被相続人が残した遺言書により財産を受け取ることです。
遺贈には二つのパターンがあり、家など特定の遺産をを相続するものを『特定遺贈』、財産のうち何割かを相続するものが『包括遺贈』といいます。

遺贈の対象が相続人である場合、残念ながら、この遺贈を受け取りながら相続放棄をすることは原則としてできません。
プラス財産のみを受け取り、マイナス財産の一切を拒否する、というのでは債権者にとってあまりにも不利益な制度となってしまうからです。

遺産相続協議で決めた借金の分割は債権者に通用しない

相続人同士で、相続した借金の分割を協議し決定することはできますが、その様な取り決めは借金を受け取る権利を持つ債権者には関係ありません。
もし債権者が取り立てに来た場合、たとえ自分が相続した負債以上の額を請求されても、拒否をすることはできません。

ただし、借金相続分割は取り決めを行った相続人同士では有効です。
一度負債を立て替えておき、後日他の相続人に立替分を要求することは可能です。

遺産に不動産が含まれていた場合

遺産に建物や土地などの不動産が含まれている場合には特に注意が必要です。
なぜなら、たとえ相続放棄を選択したとしても、次の相続人が管理を行うようになるまででの間は、不動産の管理義務が生じるためです。

つまり、不動産の固定資産税を支払う必要は亡くなりますが、管理費のみは掛かってしまいます。
したがって、不要な土地は早急に査定をし、できるだけ早く相続財産管理人をたてるべきです。
しかし、この相続財産管理人選定にも費用が掛かりますので、慎重に検討してください。

相続放棄と自己破産

相続する遺産に含まれる借金が膨大であるとき、相続放棄という選択以外にも『自己破産』をする、という方法もあります。
この両者の違いは、プラス財産を相続できるか否か、という点です。
相続放棄は全ての遺産を手にすることができませんが、相続放棄の場合はすべてを相続した後、自己破産という手段を取ることで借金を免除してもらうことができます。

メリットのある方法のように思えますが、自己破産は本来気軽に選択する事のできない、最終手段です。
クレジットカードを使用できなくなってしまうなどのデメリットもあります。
また、借金の支払い義務は消えますが、相続した分の税金は支払わなければなりません。

自己破産を検討する際は、熟考の末に決断してください。

誰が相続放棄をしたのかは申述照会で分かる

自分以外にも相続人が複数いる場合、誰かが相続放棄などの選択をした際に確認できる方法があります。
相続人に当たる者や債権者などの利害関係のある者に限りますが、裁判所に照会の申請を行うことにより、他者の相続放棄や限定承認の有無を確認することができます。

手数料はかかりませんが、申請にあたって紹介申請書、被相続人等目録が必要となります。
これらは裁判所のホームページ上でデータをダウンロードすることができます。

誰も相続しなかったら相続財産管理人を立てる

もし相続人がいなかったり、全員が相続放棄を選択するケースはどうでしょう。
そのような場合において必要となってくるのが、『相続財産管理人』です。

財産を引き継ぐ者がいない場合には、その財産を管理する人物が必要だからです。
また、たとえ相続放棄をした場合にでも、相続財産管理人がいないと自分で相続遺産である不動産の管理は行わなくてはなりません。

相続財産管理人を選定するための手続きは多額の費用が掛かるだけでなく複雑ですので、そのような状況が予想される場合には、事前に相続財産管理人を立てる準備をしておくと良いでしょう。

相続財産管理人を選定するには、まず家庭裁判所で申し立てを行わなくてはなりません。
この申し立てができるのは、債権者や特定遺贈を受けた受遺者などの利害関係者や検察官のみです。

相続放棄の手続き方法

では続いて、具体的な相続放棄の手順を見ていきましょう。
熟慮期間は三ヶ月のみですから、相続放棄の手続きはなるべく時間をかけずに済ませるべきです。
そのような事態に備え、予備知識として、実際の相続放棄の手順を覚えておいてください。

事前に頭に入れておき、いざという時に慌てず適切な判断を下せるようにしましょう。

手続きをする前にまず遺産の調査をする

何といっても、遺産の全体図を知らなければ始まりません。
この調査により、相続する財産がプラスなものが多いのかはたまた負債が多く占めているのかを明確にする必要があります。
単純承認を選択、あるいは相続放棄を視野に入れることは、この工程をすべて終えてからです。

場合によっては、それまで知りえなかった被相続人の財産が明るみになることもあります。
その時、この調査を行っていなければ財産を受け取る権利をみすみす失ってしまうリスクもあるのです。
被相続人の負債が目立つ場合にでも、遺産の調査は必ず行うようにしましょう。

遺産の調査の方法ですが、故人がの遺品を整理し、銀行口座をチェックするなど個人で行うほかに適切な業者への調査を依頼するという手段もあります。

必要書類を用意する

続いて、相続破棄を行う工程へと移っていきます。
相続放棄の手続きに入る際には、相続放棄の申述書を提出する必要があります。
申述書は相続放棄を行う本人、相続人が未成年である場合はその保護者が行いましょう。
また、申述書には申述人の名前の他に自分が被相続人の死を知った日にち、相続放棄の理由を記す項目があります。
申述書の記載をスムーズに行えるよう、あらかじめこれらを明確化しておいてください。

費用を用意する

相続放棄に掛かる費用は『弁護士などに依頼する場合』と『自分で行う場合』とでは大きく差が出ます。
手続きを自ら完了させるのであれば、約3,000円と比較的安価に済ませることができます。
しかし司法書士や弁護士などの専門家に代行を依頼すると、多くの場合では30,000円を超える費用が掛かってしまいます。

家庭裁判所に書類を提出する

家庭裁判所に申述書の書類を提出するのですが、その際は被相続人の住民票の届け出がある地区を担当する裁判所へ届けなくてはなりません。
自分の地区の家庭裁判所ではありませんので、注意してください。
また、被相続人が単身赴任中だった場合などは、居住地と住所地が異なるケースがあります。
この場合でも、本来の住所である住所地へ書類を提出する必要があります。

裁判所から送られる相続放棄照会書に回答する

該当する家庭裁判所に申述書を提出後、裁判所から『相続放棄照会書』という書類が送られてきます。
この相続放棄照会書は、相続放棄の申述を認めるか否かを判断する為に必要な質問が記載された書類です。
この照会書に嘘偽りなく回答をしてください。

相続放棄申述受理通知書が送られ、相続放棄が認められる

相続放棄照会書に対する回答書を家庭裁判所へ提出後、問題なく届けが受理されたのであれば、のちに相続放棄申述通知書が送られてきます。
受理通知書は一枚のみの書類ですが、これが届いたことにより正式に相続放棄は認められます。

受理通知書と受理証明書の違い

受理通知書は、家庭裁判所が相続放棄を完了したことを伝える旨が記載された書類です。
一方受理証明書は、相続放棄が完了したことを証明する書類になります。
通知書は相続放棄完了の知らせとして一通のみしか受け取ることはできませんが、受理証明書は手数料を支払えば何度でも入手することができます。

ただし、受理証明書は相続人から申請がなければ発行されませんので、あらかじめ手に入れておくことをおすすめします。

相続放棄したことを証明する方法

債権者などから相続放棄が完了した証拠を見せろ、と言われた場合、どうするべきでしょうか。
証明するためには、受理通知書か受理証明書を提示すれば問題はありません。
ただし、一般的に証明書として有用なのは受理証明書ですので、提示の際にはこちらを用意しておいたほうが良いでしょう。

相続放棄に困ったら弁護士に相談しよう

本来相続放棄を含め、遺産相続というのは法律の知識にたけた弁護士に相談し決めるべき事柄です。
法律について詳しくない素人が付け焼刃の知識で相続放棄を決めてしまうと、後悔する結果に終わる可能性もあります。
相続放棄は一度手続きを終えてしまうと撤回すること難しい、後戻りのできない制度だからです。

故人の負債がたくさんあるからと、一人で相続放棄を決めてしまうのではなく、まずは専門知識を持つ弁護士に相談してください。
第三者に相談することで新たな選択肢が発見できるかもしれませんし、そうでなくとも相続放棄という選択が自分に最善である、という確証を得ることもできます。

専門家の意見を積極的に取り入れ、後悔のない選択をするようにしましょう。