揉めたくない分割協議
30代の終わりから40代に差し掛かるあたりから、避けられないこととして両親や年上の親族が亡くなるケースが少しずつ増えてきます。
そんなとき、どうしても話し合わなければならないのが、遺産相続についてです。
お金がからむ問題は、非常にシビアなもの。
遺産を受け継ぐときにどんな手順が必要か、といった知識を得ておくことも必要になってきます。
そこで、複数の相続人が遺産を分割して相続するときに行う話し合い「遺産分割協議」を行います。
多くの遺産相続で必要になる手続きですが、基本知識を知っておかないとトラブルのもとになります。
近い将来起きるかもしれない事態にそなえて、遺産分割協議とはどんなものかを知っておきましょう。
遺産分割協議とは
遺産を持つ方が亡くなったとき、複数人相続人がいる場合に行われるのが、この遺産分割協議です。
方法や、どのようなものなのかを見ていきましょう。
遺産の分け方の話し合いのこと
財産を持つ方が亡くなったとき、遺産を相続する人が複数おり、分割して相続することになるケースは頻繁に起きます。
このとき、誰がどの程度・どういう遺産を受け取るかをきちんと決めるための話し合いをし、その結果を記した書類作りをするのですが、この一連の手続きが「遺産分割協議」です。
揉めないために行うもの
遺産分割協議を行う目的は「あとで揉めないため」です。
財産が絡む話になると、たとえ仲のよい親族であっても、いろいろとトラブルが起こりがち。
よって、全ての遺産相続者を集めて話し合い、「遺産分割協議書」を作ることで、後々曖昧な部分が出ることを防ぎ、揉めないようにしておこうということです。
いったん協議書ができれば、市町村役場に提出することで強力な根拠になり、あとで異議を唱えられても跳ね返すことができます。
重要なのは遺言書の有無
遺産分割協議をする前に必ず確認しなくてはならないことはいくつかありますが、中でも最重要なのは、「遺言書の有無」。
遺言書は、相続に関する法律の規定より優先されます。
例えば、遺言書の中に相続人を限定することを書いてあれば、例外もありますが大枠ではその通りにしなくてはなりません。
この場合、遺産分割協議を行う余地はほぼ無くなる、もしくは余地があっても枠組みそのものが変化してしまいます。
よって、遺産相続に関する協議を行う前には、必ず遺言書の有無を最優先で確認しましょう。
いつから始めるかは自由
故人が亡くなったあと、遺産分割協議をいつ行うかは相続関係者の任意です。
法律的な規定はないので、都合のよいタイミングで行えばよいでしょう。
ただし、拙速な協議開始はあまりおすすめできません。
遺産分割協議はとかく揉めごとになりやすく、万全の準備をせずにバタバタと済ませてしまうと、後々まで禍根を残す結果になるかもしれません。
人を集めて話し合うので、話し合いをスムーズに行えるよう、しっかりとした準備が必要です。
期限は決められていない
遺産分割協議には、法律的な期限は定められていません。
相続人たちの都合のよい時を選んで始め、期限を定めず、それぞれ納得さえすれば終わらせてよいものです。
しかし、遺産相続の手続き自体には伸ばせないものもあります。
それは、死後10カ月後にやってくる「相続税の申告と支払い」です。
相続税は、相続人1人当たりの相続額が一定額以上の場合に発生します。
相続の状況に関わらず、期限が来たら、相続人が現金で払わなくてはなりません。
だからといって10カ月後までに分割協議を終えないと取り返しがつかないわけではなく、「分割見込み書」という書類を申告とともに出しておくと、その後の遺産協議の結果に基づいて相続税の支払いを分配しなおし、払いすぎていた場合払い戻してもらうことができます。
協議に期限はなくとも、相続に関する手続きに期限がある
その他、相続に関して期限がある手続きはいくつかあります。
忘れてはいけないのは、遺産の中には時間によって価値が変わってしまうものや、時間がたつと無価値になってしまう、期限つきのものも含まれている可能性があるということです。
遺産分割協議自体に期限はないとはいえ、だいたい相続開始から1年以内には、もろもろの協議を済ませ、手続きを完了する気持ちでいたほうがよいでしょう。
相続人の全員で行う
遺産分割協議を行うときには、絶対に守らなくてはいけない条件があります。
「相続人全員で話し合う」ということです。
遺産分割協議の目的は「あとで揉めないため」であり、そのためにちゃんとした協議書を作ることです。
もし一人でも、遺産がもらえる立場なのに協議に参加していない人がいると、協議書の効力は失われてしまいます。
せっかく決めて書類にしたのに、揉め事を防ぐ盾になるどころか揉め事の原因になってしまうのです。
誰かが亡くなったあとは葬儀や財産整理などでそれぞれ忙殺されるため、つい誰かが足りなくても協議をはじめてしまいがちです。
しかし、それこそがトラブルのもと。
必ず、相続人全員を集めてから協議に入りましょう。
協議前に準備しておくべき書類
協議を円滑に進めるためにも、必要な書類を集めておくとよいでしょう。
必要な書類は以下の通りです。
故人の出生から死亡までの戸籍謄本
遺産分割協議をきちんとやり、後腐れをなくしたいのなら、弁護士に相談して協議書を作ってもらうのが基本です。
このとき、協議を行う前に用意しておいてほしいとお願いされる書類がいくつかあります。
分割協議にかぎらず遺産相続手続きのときにもっとも基礎的な書類になるのが、被相続人、すなわち故人の「戸籍謄本」です。
戸籍謄本は、故人の血縁関係を証明する絶対的な書類として扱われています。
民法には「法定相続人」というものが定められていて、遺産協議には定められた相続人を全て集める必要があります。
法定相続人が誰なのかを定める根拠になる書類が故人の戸籍謄本です。
相続人の戸籍謄本
被相続人と同様、相続人の戸籍謄本も全員分用意しておく必要があります。
その人が相続の権利を持つ立場であることを証明する書類だからです。
被相続人と相続人の戸籍謄本の突き合わせがあってはじめて、相続人は相続人であることが確定します。
遺言書を探して内容を確認
遺産相続において遺言書は絶大な力を持ちます。
ですから必ず、遺言があるかどうかを丹念に探す必要があります。
遺言書を発見したら、すみやかに家庭裁判所に提出しなくてはいけません。
また、封がされている場合、勝手に封を開けるのは厳禁。
弁護士に預けていない自筆の遺言書は、家庭裁判所で相続人の立会いのもと「検認」の手続きを行い、遺言書として有効かどうか判断されます。
預貯金などの財産の確認書類
遺産にはさまざまな内容のものが含まれますが、基本になるのはやはり「お金」です。
被相続人の口座を調べ、残高証明書を用意し協議書提出時に添付する必要があります。
他に不動産登記の書類や車などの登録書類も一通りそろえなくてはいけません。
協議の紛れをなくすためにも、事前に用意しておきましょう。
相続人の印鑑証明書
遺産分割協議書を作るときには、相続人全員の署名捺印が必要です。
もちろん実印でなくてはならず、印鑑証明書も添付しなくてはいけません。
話し合う内容が財産にからんでいるため、厳重な手続きが求められます。
遺産分割協議の流れ
遺産分割協議とはいえ、どのように進めていけばよいでしょうか。
進め方を知り、必要な人に声をかけるようにしましょう。
まずは相続人の把握
協議を始めるにあたり、真っ先に遺産を受け取る権利があるのが誰と誰なのか、全部で何人いるのかを調べ、相続人を確定する必要があります。
民法が定める「法定相続人」は、故人の配偶者(夫か妻)、子供、両親、兄弟姉妹です。
続柄がそれ以下の親族には基本的に相続の権利はありません。
意外と簡単だと感じるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
たとえば、遺言書がある場合や、法定相続人に当たる人が一人もいない場合、わりとメジャーな問題として、戸籍が複雑怪奇になっている場合は非常に難解になってくる可能性があります。
また、相続人を確定する時点で揉めるケースもあるようです。
全ての遺産を調べる
遺産相続の基礎作業としてどうしてもやらなくてはならないのが、故人の遺した財産を全て調べることです。
現金、預貯金、株や有価証券、不動産、所持品など、故人の財産が多い場合は調べるのも一苦労です。
また、あまり書類をちゃんと保管していなかったり、急死だったりすると、調べ上げるのも大変なことに。
そういう時はためらわず弁護士などの専門家に頼りましょう。
遺産の中には借金も含まれる
分け合うのは、目の前にある金銭などの財産だけではありません。
マイナスである借金も財産となるため、借金も調べる必要があります。
むしろ、借金を優先して調べなくてはいけません。
なぜかというと、故人が亡くなったからといって借金は帳消しにはならないからです。
借金の期限がある場合、相続側の都合はさておいて返さなくてはいけません。
ですから、可能なかぎり早く調べておく必要があります。
相続財産の目録作成
遺産を一通り調べたら、相続財産が一覧できる目録を作成します。
実は相続財産目録そのものが、公的な資料として要求されることはほとんどありません。
あくまで協議のための内部資料のため、作成も必須ではないのです。
しかし、トラブルを避けるために、目録はちゃんと作っておくことをおすすめします。
そうすることにより、協議進行がスムーズになります。
話し合いで分割を決める
書類や協議する内容を調べ上げ、協議内容が固まったら、遺産分割協議を開きます。
これには相続人を全員集めることが必須です。
1人でも欠けてしまうと、協議書を作っても効力を発揮しません。
民法は法定相続人にそれぞれ、立場による取り分を定めています。
例えば、配偶者と子供2人の場合、配偶者に2分の1、子供にそれぞれ4分の1と定めているのです。
ですから、基本的には民法の定めに沿って分割の話をすることになります。
分割できないものについても話し合う
遺産のなかには分割できないものがあります。
代表的なのが不動産です。
そういったものを誰がどんなふうに受け取るのかを協議して、すり合わせていきます。
また、借金はどう処理するか、遺言書によって法定ではない相続人が現れた場合どうするか、法律上は権利があるのに遺言書で無視されてしまった者の取り分(遺留分、といい法律で決まっています)はどうするか、など、事情によってはややこしい話をたくさんしなくてはいけません。
協議を終えて協議書を作成するには、全員の同意が必要です。
1人でも納得しない人がいれば、協議書は作れません。
遺産分割協議書を作成
協議が終わったら、遺産分割協議書を作成します。
相続登記の時に提出し、のちのちまで大きな効力を持つことになる書類ですが、実は国が定めた正式な書式はありません。
しかし、守らなくてはいけない書式の約束事がたくさんあり、適当に作っていいものではありません。
守る書式は以下の通りです。
2.作成日付がちゃんと入っていること
3.各相続人が受け取る遺産の内容が正式な形(不動産であれば不動産登記簿謄本の通りの内容)で書いてあること
4.書類の最後には相続人全員の署名捺印があること
作成に自信がないなら弁護士に任せましょう。
遺産分割協議で揉めてしまった場合は
遺産が絡むとどうしても揉めてしまうことがあります。
できるだけ双方の意見を尊重しながら行うために、以下の方法をご紹介します。
遺産分割調停を申し立てる
相続人同士の話し合いでは意見が統一できず、「協議破綻」といわれる状態になった場合は、家庭裁判所に調停を申し込むことになります。
遺産分割調停は利用されることが多い調停です。
申し立ての手続きはやや面倒ですが、費用はだいたい1,000円程度。
調停は、相続人同士が直接話し合わなくてよいというメリットがあります。
どうしても世間体を気にして、「大げさにしたくない、当事者同士で解決したい」という気持ちになりがちですが、話し合いが破綻しそうなら、ためらわずに調停を頼んだほうが物事がややこしくならずにすむケースも多いのです。
調停は主張が言いやすい
遺産分割調停の場合、相続人同士が顔を合わせるのは最初と最後だけです。
自分の主張は、他の相続人ではなく調停委員や裁判官にたいして話すことになります。
これが調停の最大の長所で、話す相手が社会的立場のある他人なので感情的になる必要もなくカッときて売り言葉に買い言葉を言ってしまったりということもなく、伝えたいことをきちんと伝えられます。
調停側は「誰が正しくて誰が間違っているか」という視点では相続人を見ていません。
あくまで全員が妥協し、合意にこぎつけることを目的として意見を調整し、妥協案を提案してくれます。
かかる期間はもちろんケースバイケースですが、1年以内には解決することが多いようです。
調停不成立後は審判に
もし分割調停でも意見がまとまらない場合は、調停不調ということになり遺産分割審判に自動的に移行します。
なお、最初に家庭裁判所に相談に行ったときに調停ではなく審判を選んで申し込むといきなり審判に進むこともできますが、あまりおすすめはできません。
調停不成立の場合は、基本的に「裁判」になり、各相続人が書面や口頭で主張をし、最後に裁判官が判断し決定したことを言い渡す流れになります。
しかし、裁判所としてはあくまで当事者間で折り合うのがベストと考えているので、審判中も調停に近いことを行います。
それでもまとまらない状態でも、裁判所の決定が出たら、当然関係者はそれに従うことが求められます。
もし不服のある場合は、通常の裁判同様に異議の申し立てを行い、高等裁判所に舞台を移して抗告審が開かれることになります。
遺産分割協議のポイント
遺産分割協議を開く中で、大切なポイントがあります。
以下を参照し、今後のために役立てましょう。
成立後のやり直しはできる?できない?
遺産分割協議書を作って提出したあと、状況が変わった場合、分割のやり直しができるかどうかが不安ですよね。
もし相続人全員の合意があれば、可能となります。
話してきた手続きをもう一度踏み直せば、新しい協議書を作り提出できます。
ただし、注意しなければならないのは、やり直しによって相続人の間で財産が移動した場合、それは相続ではなく「贈与」とみなされるということです。
当然、贈与税がかかることになります。
やり直しを絶対にしなくてはならないケースもある
そもそも、出した協議書が無効になったときはやり直しをしなければなりません。
例えば、あとから相続人が新しく現れたり、隠し財産の存在が判明した場合、協議の前提になっている「遺産を全部明らかにして、全員で話し合う」という前提が崩れているため、協議書自体が無意味なものとみなされます。
こういうときは、新しく明らかになった事実を織り込んで、あらためて協議を行う必要があります。
分割協議は遺言書で禁止できる
遺産分割は、遺言書を残すことで禁止することができます。
ただし、期限があり、相続開始から最長で5年間。
この5年間は、もし調停や審判の申し立てをされても家庭裁判所は受け付けません。
なぜ遺産分割を「5年」という期間つきで禁止する必要があるのか
それは、未成年者への配慮です。
相続人がまだ未成年の場合、いきなり大金を相続させるのはよくないという風潮もあり、「一定年齢になるまで遺産分割はするな」と遺言を残すことがあります。
また、一定年齢に達するまでは配偶者などがその遺産を預かり、生活費を分配することといった遺言もあわせて書かれていることも。
それは、家族への思いやりからトラブル回避のために、故人が遺産分割を遅らせているのです。
弁護士に相談しよう
もし、遺産が高額だったり、家族関係が複雑で多数の相続人がいるなど、親族間の関係があまりよくなく、トラブルの気配がある場合は、ためらわずに弁護士に頼るべきです。
遺産分割協議では、各種書類の準備、相続人のスケジュール調整、利害関係の整理と調停など、遺産分割協議でやらなくてはならないことは多く、一定規模をこえると素人ではとても処理できなくなります。
そのときは必ず専門家を呼びましょう。
「遺産も少なく、家族の数も少ない。トラブルもないから大丈夫」という場合でも、弁護士の力を借りることは常に念頭に置いておきましょう。
人数が少なかろうと、お金がらみで生じるトラブルは少なからずあります。
多少費用がかかっても、遺産相続という人生の一大事を遅滞や揉めることなく済ませる一策となります。
準備を念入りにし円満に協議しよう
遺産分割協議でまず心がけなくてはいけないのは、事前の準備をきちんとすることです。
相続人の確定と連絡、そして遺産の調査と目録の作成など、こういった準備に抜けがあると、分割協議をせっかくうまくまとめても、協議書が無効になりやり直さなくてはならなくなります。
また、明確な財産目録があれば協議そのものもかなりスムーズになるでしょう。
円満な解決をめざすために、段取りをひとつひとつ着実に踏んでいきましょう。